夢と現実のおとぼけバラエティー

実際に夢で見た内容を載せています。それと落語や漫才・コント・川柳・コラムなどで世相を風刺したりしています。

創作落語『お品書き』

2019-09-11 12:00:03 | 夢と現実のおとぼけバラエティー
        

      テン・テン・ツク・ポン・テケ・テン・テン・テケ・ツク・ポン




              『お品書き』




え〜、ただ今はグルメ時代とかで、もう大変でございます。
え〜、江戸の世にも外食産業がございまして、けっこう繁盛しましたそうですな。
浅草寺門前の「奈良茶」などが、定食の元祖だそうでして、
茶飯、豆腐汁、煮しめなどのセットメニューもあったそうで。
その後、享保(きょうほう)の頃になりますと、
銀五匁(約8千円)で2汁5菜のコース料理なんて豪勢な料理が出てきまして、
これがウケて、料理茶屋がどっと現れたそうでございます。
そのうち、「升屋」とか「八百善」なんて高級料亭までが現れまして、
今の金額にして何万円という料理もあったということでございます。
こういった店には、どんな客が来るのか気になりますが、
お大名の江戸留守居役たちの会合の定席となっていましたようで、
留守居役たちは、酒食ばかりか芸者まで上げて、
付けは、もちろん藩の交際費・・となっていたそうで。
江戸の町人たちは、こういった茶屋を、"留守居茶屋"と呼んでいたそうでございます。






八    「おう、浜町に変った定食屋があるってんだが、行ってみねぇか」


熊    「へぇ〜、変った定食屋ねえ?」


八    「そういう評判だが、ちょいと行って、ようすを見てみようじゃねぇか」


熊    「変なもの食わせるのか・・? まあ暇つぶしにいってみるか」


八    「ここだな。え〜と、なんだなんだ・・、
      ”とりあえず定食”なんて看板が出てやがる」


熊    「おう、ごめんよ」


八    「へえるぜ・・・」


熊    「ガラガラだ・・。ネズミ一匹いやしねぇな。おう、誰も居ねえのかい?」


定食や  「へいへい、何かご用で・・・?」


八    「ご用ってほどのことじゃねえが・・・飯を食いに来たんだがな」


定食や  「あんりゃまぁ〜そういうことですかィ・・。へぇ〜!? たまげたなぁ〜」


熊    「へぇ〜って、客が飯を食いに来たからって、たまげるこたァねェだろ」


定食や  「へえ、・・お客を見るなんてこたァ、めったにねぇことなんで・・・
      いやぁ、珍しい」


八    「こっちが驚いたぜ。客が、そんなに珍しいんか?」


定食や  「へえ、珍しいのなんの、お客を見るなんて、
      開業してから三度目なんで・・・」


八    「とんでもねぇ店に入っちまったかな? おう、お品書きを見せねェ」


定食や  「えっ、お品書き・・・。懐かしい名前でございますなぁ。
      いえね、有ることは有ったんですがね・・」


熊    「どしたィ・・?」


定食や  「へえ、五年前に売れてしまいやした・・・」


八    「なんだとォ・・!? お品書きが売れたァ!? 
      おめェんとこは、定食とお品書きと両方売るんか!?」


定食や  「いえいえ、そういうわけじゃねえんでやすが・・・、
      あれを作ってくれた、左・・なんとか云う彫り物職人が、
      "これで商売繁盛するよ"って置いてったんですがね、
      その後、たまたま来た客が骨董屋でして、
      ひと目お品書きを見るなり、"これを売ってくれ"って申しまして、
      五両で買い取って行ってしまいやした」


八    「売っちまったんじゃあ、しょうがねぇなぁ。
      どんな定食が書いてあったんだィ・・?」


定食や  「へい、何て書いてあったか覚えてねぇんでして・・・」


熊    「それじゃあ、適当にみつくろって何んかつくってくれィ」


定食や  「いえ、そうはいきませんな。
      お品書きに載ってない料理はつくりませんので・・・」


熊    「じゃ、何かい? 定食を注文するには、
      骨董屋に行ってお品書きを見ろってことかい?」


定食や  「へいへい、まあ、結果的にそういうことになります・・・」


八    「なにが結果的だィ・・。なぁ、やっぱり変ってるだろ、この店」


熊    「まぁ、いいってことよ。おいらも、それを承知で酔狂で来たんだ」


八    「で、どこにあるんだ、その骨董屋は?」


定食や  「へいへい、ちょいと遠くになりますが、王子の方でして・・・」


八    「ブブッ!! なにィ? 浜町から王子までお品書きを見に行くのか??」


定食や  「へいへい、まことに相済みません・・・」


熊    「まぁ、いいってことよ。途中で飯でも喰って行こうじゃねぇか」


八    「・・で、何てぇ名前だ、その骨董屋・・?」


定食や  「へいへい、たしか"ぼんぼこ堂"と云いやした・・・」


熊    「へんてこな名前だな・・、よしわかった」




・・てわけで、ふたりは神田から王子を目指して歩きます・・・



八    「あれじゃ、客が入らねぇわけだ・・」


熊    「それのしても王子たぁ・・えらく歩きでがあるよなぁ」




・・こんにちの時間で、三時間も歩きましたでしょうか・・・




八    「おっ、あれだ、あれだ・・」


熊    「へとへとだよ、もう・・」


八    「おぅ、ごめんよ・・」


骨董屋  「へい、いらっしゃいまし」


熊    「・・水をくれィ・・」


骨董屋  「へい、ここは骨董屋でして、茶店じゃありませんので・・」


八    「いや、じつは、こうこうしかじか・・というわけで・・
      日本橋浜町からはるばるやって来たというわけなんだ」


熊    「おれたちは、そのお品書きに何て書いてあるのか、それが知りたいのヨ」


骨董屋  「はあ、さいでございますか。少々お待ちを・・・。
      え〜、これが、そのお品書きで・・・」


八    「お前さんも、物好きだねぇ・・。こんなもんを五両で買ったのかィ?」


骨董屋  「はあ、素人衆には、つまらぬ木片に見えるでしょうが、
      これを作ったのは、左甚五郎という名彫物師でして、
      これは是非にでも買わねばと、
      大枚五両を叩いて手に入れましたものでございます」


熊    「ジンゴベエでもなんでもいいから、そのお品書きに何て書いてあるのか
      それが知りたいのヨ」


骨董屋  「はあ、さいでございますか。
      え〜、"絶品かれい定食"と書いてございますな・・・」


八    「かれい定食かィ? ありがてェ。
      それさえ分りゃあいいのヨ。 どうも、ごめんヨ」


熊    「腹が減ったなあ・・。帰りの道中は長いよ」


八    「日本橋に戻るまで、もう少しの辛抱だ・・」




・・帰りはヘトヘトなので、たっぷり四時間も歩きましたでしょうか・・・




熊    「おお・・。日本橋に着いたよ。ふらふらだぁ・・・」


八    「おやじ、分ったぞ。"絶品かれい定食"だ・・」


定食や  「へいへい、さいでございますか。
      え〜、"絶品かれい定食"でございますな・・・」


熊    「早く作ってくれィ。腹ぺこで死にそうだぁ・・・」


定食や  「へいへい、これから魚やで仕入れて来やす・・・」



・・てわけで、定食やのおやじは、魚やへ・・・
・・あいにくその日は、"かれい"は売り切れで、"ひらめ"しか無い・・・



定食や  「まあいいか、"ひらめ"だって平べったい魚に違いはない・・・
      ぶつ切りに料理しちゃえば、判らんだろう・・・」



・・で、そのまま煮魚にして、ごちゃごちゃ盛りつけて・・・




定食や  「へえ、お待ちどぉ・・・」


熊    「これが、"かれい定食"かい・・・?」


八    「魚の形をしてねェなぁ・・?」


定食や  「へいへい、当店自慢の珍品定食でして・・・」


熊    「ところで、"かれい"ってのは、眼が右に付いてたか、
      左に付いてたか、どっちだったかナ?」


定食や  「へいへい、左でございます。あたしゃ、たったいま見たばかりで・・・」


八    「左!?・・じゃあ、これは"ひらめ定食"じゃねぇか」


定食や  「えっ! え〜、へへへ・・。いつもは右なんですが、
      どういうわけか、今日の"かれい"は左に付いてました・・・」



           お後がよろしいようで・・