大衆演劇《鹿島順一劇団》見聞録

全国に140以上ある劇団の中で、私が最も愛好している「鹿島順一劇団」の見聞録です。

芝居《「新版・人生花舞台」と舞踊絵巻「忠臣蔵」》(平成21年正月公演・つくば湯ーワールド)

2015-09-12 21:18:18 | 平成21年正月公演・つくば

芝居の外題は「人生花舞台」。この劇団、この演目の見聞は3回目、今回の配役は大幅に様変わりした。元・歌舞伎役者(老爺)の主役が、座長・鹿島順一から蛇々丸へ、清水の次郎長が花道あきらから座長へ、一家子分の大政が蛇々丸から花道あきらへ、というように。その結果、これまでとは「全く違った趣き」の景色・風情が現出する。この劇団の芝居は、同じ演目であっても、その時、その場所、その空気、その客筋などによって「千変万化」することが特長である。言い換えれば、芝居の出来・不出来は「一期一会」、その日の「客との呼吸」によって決まることを、座長は熟知しており、またその思惑を座員全員が「心得」、つねに「最高の舞台」を作り出そうと「真摯」「懸命」な努力を重ねているということが、この劇団の「素晴らしさ」であり「実力」なのである。
 今回の舞台、主役・蛇々丸は、座長・鹿島順一の「舞台姿」を誠実に「なぞり」ながら、彼独自の「個性」も輝かせている。春大吉の「花形役者ぶり」にも、いっそうの磨きがかかり、「父子の再会」シーンが鮮やかな「絵巻物」のように観てとれた。加えて、その仲をとりもった清水次郎長(座長・鹿島順一)の風格・貫禄は「天下一品」、この芝居に「もうひとりの主役」が登場してしまう、という雰囲気であった。
 舞踊ショー幕開けの組舞踊「忠臣蔵」は、圧巻。「刃傷松の廊下」は、歌唱・鹿島順一、浅野内匠頭・三代目虎順、吉良上野介・蛇々丸、「浅野内匠頭切腹」は、春大吉、「立花左近」は、左近・鹿島順一、大石内蔵助・花道あきら、「俵星玄蕃」は三代目虎順、杉野十兵次・春大吉という役柄で、申し分ない。とりわけ、「刃傷松の廊下」の歌唱・鹿島順一は、元祖・真山一郎よりも「数段上」の実力、多くの観客は「鮒め、鮒め、鮒侍め!カッ、カッ、カッ、ペッ・・・」と罵倒する台詞の時まで、歌い手が誰かに気づかなかったのではないだろうか。欲を言えば「俵星玄蕃」の三代目虎順、その「心情表現」において、まだスーパー兄弟・南條影虎には及ばない。でも、つねに全身全霊で芸道に励む彼のこと、いつかは必ず「追いつき、追い超すだろう」ことを確信する。1月公演も前半を終了、ようやくこの劇団の「客席づくり」が軌道に乗ってきたようだ。開幕前のアナウンスで「拍手」、開幕で拍手、座長をはじめ各座員の登場で拍手、退場で拍手・・・、というように「客との呼吸」が「一致」しはじめた。浅草木馬館で「劇団竜之助」の座長・大川竜之助は、自らが先頭に立ってその「盛り上げ係」に徹していたが、この劇団は、「何もしない」。公演を重ねることによって、いわゆる「御贔屓筋」が「選別」され、「目利きの客」だけで「客席」が埋まるようになるのではないか。客筋は「量よりも質」、そのことが「舞台」を充実させる唯一の道であることを、この劇団は知っている。送迎バス運転手の話。「わざわざ、新潟から来られたお客さんがいるんですよ、どうしても鹿島劇団を観たいんですって。新潟にも劇場があるはずなのにねえ・・・」客席最前列で拍手と花(御祝儀)を贈り続けた、そのお客さんの話。「とうとう来てしまいました。新潟は大雪です。いつも体の調子がよくないんですが、この劇団の舞台を観ると『元気』がでるんです。ありがたいことです」。
にほんブログ村 演劇ブログへ


ブログランキング・にほんブログ村へ
AX