
藤間勘十郎文芸シリーズ其の壱「綺譚 桜の森の満開の下」
5/20(水)マチネ あうるすぽっと(豊島区立舞台芸術交流センター) B列センター
【原作】坂口安吾
【上演台本】近衛はな
【演出・振付・音楽】藤間勘十郎
【出演】中川晃教 / 市川ぼたん / いいむろなおき / 花園直道 / 山本一慶
(大きくネタバレしております)
2014年に上演された「能楽堂版」、あれは大変衝撃的でした。( 感想文 → こちら )
とても好評だったのことで、今回は出演者2名を加えて「劇場版」として上演。
「同じ作品を別の劇場で観る」ことはそうそうないけれど、そうすると上演場所がそれほど大事なのかがよくわかります。
能楽堂で観たものとは全く印象が違って、劇場なのでとても観やすく、また楽しめた作品でした。
そもそも脚本の構造が違っていて、…冒頭は「男」が坂口安吾の「堕落論」を朗読するところから始まります。
そこから桜の化身(桜の精)によって物語の中に引きこまれ、もうひとり安吾を連想させる朗読者によって展開してゆきます。
冒頭にシンプルな白いシャツで登場したあっきーは、「物語の中に入る」ことを顕著に表すためか、舞台上でナマ着替え。
(それも結構な早着替えで、「脱ぎ捨てる」のが見えてどきどきしました)
ぼたんさん演じる「女」に袴をつけてもらうところからは、ガッツリと物語が展開していきます。
音楽も、邦楽の調べからグラデーションのようにピアノやチェロの音が介入してきて、あっきーの歌につながる。
このあたりの橋渡しは違和感なくて、あっきーの歌も控えめで静かに響き渡る。
しかもマイクレスのナマ声で。これは貴重だったなぁ。
二幕はエンタメ度合いがアップしていて、なんと言ってもいいむろさんのパントマイム芸が素晴らしいです。
お客を弄って笑わせてすごい芸達者。(あの首をカクカクする芸を教わってもらってください)
能楽堂では「男」が最後に慟哭する場面は正面席からしか見えず、劇場全体で共有することができなかったのですが
「女」の首を渾身の力で締め上げてから我に返るまでの表情。
魔性に引き込まれてゆく過程が詳細に描かれているからこその説得力、すごかった。
そして、首を抱きしめるときの…安堵感のようなもの。
あっきーは全身の水分を出し尽くしておりましたが、こちらのハンパない緊張感も一気に解放されて。
山本さん演じる安吾が舞台を去り、再びあっきーの歌で幕が引かれますが
同じ歌がリプライズされるものの全く違う歌になっていた。二重構造になっている脚本がすとんと着地。
少し違和感あったのは、終わり方…というかカテコなんですが、
能楽堂では謡や囃子の人が退場して「終演」なのに、劇場版だからなのか暗転→挨拶→終演という流れなのね。
ポスターのようなポーズを取ったあと劇中人物のままで挨拶していたので、あっきーのお口は「へ」のままでした。
(…噂によると金曜日は取れてしまった付け毛を拾って遊んでたらしいから日によって違うのかな)
お囃子は追い出し音楽のようになり、演奏者に拍手できませんでした。
劇場版は「どこからも見やすく華やかに」という意味ではとてもよかったと思いますが、
能楽堂版とは別物、と考えればよいのかな。
でももっと客席は埋まるべき作品だと思います。
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