静岡市になって一年を迎えた蒲原。
元庵原郡蒲原町は、太平洋沿いの、富士川の西岸に位置する。
合併しても、もちろんそうで、東から静岡市を目指して電車に乗ると、富士川を超えれば蒲原から静岡市。
ここで酒屋を営む、三代目市川商店店主が、市川祐一郎さん。
各地で見られるように、個人経営の酒店として、地域に密着してきた。
そして、各地で見られるように、個人商店の危機も感じていた。
大型ショッピングセンター、ディスカウントストア、そこに並ぶ扱いの自由になった酒。
自分たちが仕入れるよりも安い値札がついた酒に、三代目、驚く。
こっちには、地酒のいい酒がいっぱいある。
なのに、売り先が、ない。
チラシも打った。DMも、郵送した。地元のミニコミにも掲載した。
売り先さえあれば、いくらでも売れる、必ず人気のある、いい商品なのに。
そんな12年前のある日、富士川を挟んで東の富士市の広告を見かける。
「インターネット上に、仮装市場を作ります。お店を出しませんか。」
これだ!!
三代目は、そうひらめいた。
楽天がない時代だ。
それより、どこの家庭にもPCがあるような時代ではない。
高額な上に、操作も難しく、電話回線で、相当の時間をかけて繋ぐため、電話料金も高額になる。
電子メール以前、パソコン通信という、特殊な時代。
もちろん、三代目の家にも、パソコンはなかった。
しかし、これならいける、と富士市のキャルシステムの一番乗りとなる。
(現在キャルシステムが運営する「ふじのくに」
http://www.fujinokuni.co.jp/)
まだ、ネットで販売する酒屋は、日本に2,3件しかなかった。
Yahoo!も始まりの頃で、ゼヒに、と声がかかる黎明期。
パソコン通信をしたこともなく、パソコンを持たない三代目は、ワクワクした。
これで、明日から、ばんばん注文が入ってきたら、どうしよう。。。。
心配は要らなかった。
半年で、6件の注文。
そこで半年で一旦休止した三代目、やにわに猛勉強を始める。
思いはあっても、売り上げには結びつかない。
インターネットが何かをしてくれるわけではない。
自分がやらねば。
その頃の成功者を呼んで、勉強会をする。
京都のTシャツ販売のイージーの岸本さんは、特に、三代目の心を打つ。
ネット上の店舗、再開。
そして、知り合ったプログラマーには、買い物をしてもらうためのシステムプランを相談、開発。
今の「買い物カゴ」の先駆けだ。
更に、支払方法の簡便さを鑑み、コンビニでの代金支払いや、宅配業者の代引き、キャッシュカードでの支払方法を可能にする。
もちろん、自宅にPCを導入した。
繋がるまで課金される客を立場を考えて、すぐに買い物できる画面が出る記録メディアを作成し、郵送した。
メールマガジンのないこの時期に、一斉のグループ通信も始めた。
三代目、そっちの方向でシステム開発を売れば。。。。
しかし、彼の望みはそこにあったのではない。
いい酒、うまいもの、絶対の自信を持って進められる商品を、気軽にもっと全国のお客様に親しんでもらいたい。
そのためにこそ、アイディアが生まれ、動き、努力を重ねたのだ。
そんなこんなでぼちぼちと、日本のネット環境も後をついてきた3年後のある日。
画面を開いた三代目、こりゃやられた、いたずらか、と、すらっと並んだ注文メールを眺めた。
しかし、確認していくと、確かにみな異なる注文者。
何が起こったんだ。。。。。
やがて、疑問は解決する。
スポーツ報知の一面に、和歌山の銘酒「羅生門」が掲載されたのだ。
モンドセレクシオンで、11年連続世界一を受賞しているうまさの秘密を取材した記事だった。
手に入れたい、と思ったPC所有者が検索をかけたところ、トップにヒットするのが、三代目の「銘酒 市川」。
毎日数十件の申し込みが、一週間続いたという。
「羅生門」の特約店になる際にも、エピソードがある。
ある日三代目、アポなし、飛込みで、蔵元のある和歌山に出向いた。
東京の有名大手酒店でも、蔵元に相談に行って半年後でなければ、取引が出来るかどうかの返事がもらえない。
なぜなら、どんな経営形態で、どんな顧客がいて、どんな保管方法をとり、どんな売り方をするのか、全てを調査して、判断する。
そんなこととはつゆ知らず、美味しい酒を扱いたい一心で、乗り込んだ。
30分、話をする時間をもらう。
それから3日後、社長からじきじきに、特約店契約の電話。
この酒が、後に、ネット上での展開を始めた三代目を、勇気付けてくれる。
一昨年、羅生門の常務が、突然市川酒店を来訪した。
大きな羅生門の看板、丁寧な扱いを見て、とても喜んでくれたのだそうだ。
ネットがあるからではない。
個人と個人、人間同士の誠実な心のつきあい、真摯な行動が、商売を支える。
そして、だからこそ、いまや、店舗販売が2割、ネット販売が8割の売り上げになったのだろう。
勉強会を開いて、成功者を呼んでいた三代目が、講演者として呼ばれるようになった。
個人商店が生き延びるのは難しい、とよくため息交じりの声が聞かれる。
三代目に、どうすればよいのか聞いてみた。
やって楽しいこと、得意なことを見つけることじゃないかな。
商品の中に、きっとあるはずだと思う。
相性のいい蔵元や商品を見つけるんでもいいと思う。
静岡県は、銘酒の産地でも有り、中でも「喜久酔」は、社長の人柄も含めて本当に好き、という三代目は、
よし、まずは、喜久酔を、県内一売る店になろう、と思ったのだそうだ。
驕ることなく、怠けることなく、地道に商う。
これが、案外難しい。
しかし、やればやるほどに楽しみがある。
ネット販売を始めたころに注文してくれた客は、いまでもずっと、三代目の客だ。
裏切らない商いを見続けてくれる人々がいる。
今、三代目が担う蒲原の「銘酒 市川」には、システム開発の社員がいる。
まだまだ留まらない、三代目の心意気。
◎「銘酒 市川」市川商店のサイトはこちら。
http://www.e-sakaya.com/
◎日本地酒協同組合と協働で、いい酒を発掘中。面白い。
http://www.e-sakaya.com/shobu/shobu.htm