青い睡蓮(スイレン)の池は、
時間を忘れるほど心が吸い込まれていく。
花びらの中のしべがひらくとき、
かすかに音をたてたような気がしたが、気のせいかもしれない。
蝉の声、時おり鳥のさえずり、
風の音、水の音 . . . .
いろんな音があるのに、静かな庭。
さて、この夜はこの庭の向こうで、お目当ての音楽会。
美しい音楽を作る人、阿部海太郎さんのコンサート。
憧れの場所で、大好きな音楽を聴けるよろこび。
霧のような小雨が、緑を濡らしていった。
空気中に、清涼な水気が満たされていく。
真夏の狭間の、奇跡のように心地よい夜。
日没とともに、青い睡蓮は眠りに入ってしまった。
代わりに、夜の光が咲いた。
この道を、演奏会に向かう人々が、のんびり歩いていく。
今夜は満席で自由席のはずだけど、みな、慌てる風でもなく、
ゆったりと心地よい気分で歩いていく。
音楽会が始まる前の、このおだやかな雰囲気が
とても幸せな気分にしてくれた。
ここ、クレマチスの丘ができて、今年が10周年なのだそうだ。
それを記念して、阿部海太郎さんが、
短いテーマ曲をいくつか作曲することになった。
この庭のホームページを開けると流れてくるが、
今夜は初めて生演奏で披露された。
そして、新しい小曲が、次々演奏される。
海太郎さんのピアノをはじめ
弦楽器、オーボエ、パーカッション . . .
拍子木や大きな釘を鳴らす音など、
豊かな音が生まれては消えていった。
短いフレーズに、美しい物語が展開し、
それはまるで、短編の絵本をめくっていくような
素敵な時間だった。
余韻にひたりながら歩く小道に、
真っ白な百合が一輪
音楽の記憶の中で、今も美しく咲いている。
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