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プロジェクトZ第17回(全20回)

2008年05月21日 | Weblog
世界への触媒

  昭和47年、若かりし日のK博士(K研究員)が発明した高性能チーグラー触媒は、直ちに実用化され従来の触媒系から切り替わっていく。触媒が変われば、生成するポリエチレンの性状も変化するため、社内各部署でそれぞれ相当の苦労があったことは事実である。しかし、その苦労も新触媒があってこそであり、従来通りを踏襲しておればいずれ企業は沈没する。

  新触媒の現場化のため、K研究員は奔走する。その間、青年はさらなる触媒開発目標を指示されただけで、日々の実験はほとんど自分で考えてやるようになる。そして、成果を出す。周囲の研究者、補助者もその姿に動かされる。補助者は単なる実験者ではなくなってゆく。研究室全員が考える集団となる。

  その後M社の触媒開発パートナーなったヨーロッパの業界の超ブランド企業の研究所では、研究者を頂点に、実験計画者、実験者、実験監視者、器具洗浄者のように階層的に人が配置されていたと聞く。青年たちの研究室ではこの階層が全く無いに等しかった。すべての研究工程を研究補助者一人で行うこともあった。そんなことが、人員数で10倍規模のブランド企業と対等以上に渡り合えた要因ともなった。

  青年はポリプロピレンの触媒合成法の改良を指示される。M社のポリプロピレン用高性能触媒はすでに実用レベルにあったが、合成過程に物理的処理が必要であった。これをすべて化学的処理で行い、さらなる性能向上を目論んでいた。青年は先のK研究員からの指示で合成したポリエチレン高性能触媒の製法をポリプロピレン触媒にも応用した。青年が研究所に異動して5年目、昭和50年のことだ。その触媒自体は直接実用化まではならなかったが、青年をセカンドネームとする海外26カ国特許となり、開発パートナー企業の目にとまり改良が加えられる。その改良処方の応用によって新たな触媒開発の方向性が生まれ、その成果の上にK研究員チームの緻密な実験力と相俟って、世界に冠たるポリプロピレン用高性能チーグラー触媒が生み出される。

  これらの成果は、ポリエチレンやポリプロピレン製造コストの大幅な削減と環境負荷の低減をもたらし、M社に技術輸出によるロイヤルティと触媒販売による収益をもたらし続けた。そして20年後の触媒科学国際シンポジウムへと繋がったのである。
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