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経済学のすすめ13

2011年07月13日 | Weblog
自由貿易の理論

 国家間で自由な貿易を行うことは、両国にとって有益であるということを理論的に説明する手法が経済学にはある。先に本稿(経済学のすすめ10「市場の失敗」)でも取り上げた余剰分析*47)によるのである。ある国のある財における市場が完全競争市場であると仮定すると、その市場均衡は需要曲線と供給曲線の交点であり、貿易論では「自給自足均衡」といわれる。

 ここで取り上げる「ある国」は、その財が世界市場に占める割合が非常に小さく、その国の貿易量は世界市場価格に影響を与えない、すなわち「小国」であると仮定される。その小国の需給均衡(自給自足均衡)点における価格が、世界市場での価格より高い場合、その国はその財を輸入することになり、逆であれば輸出することになる*48)。

 すなわち、世界市場価格が低い場合には、ある国の需要は輸入によってその価格と均衡するまで増加する。一方国内生産量は、世界市場価格と均衡するまで縮小する。これを図で示すとすれば、この国の需給の均衡点(国内価格)の下方(世界市場価格のポイント)に一本横に補助線を入れる。この補助線と需要曲線の交点が消費量を示し、供給曲線との交点が国内生産量となる。ゆえに需要量と国内供給量の差が輸入量となるのである。この図に見る通り、ある財を輸入することになった時、消費者余剰は大幅に増加し、その国の生産者余剰は小さくなることが分かるが、元々の均衡点の下に生じた三角形の面積分総余剰は増加するのである。

 逆の場合、すなわち、世界市場の価格が国内価格より高い場合は、この国の需給の均衡点の上方に補助線が入ることになり、貿易(輸出)によってその国の生産量は補助線と供給曲線の交点まで増加し、生産者余剰が拡大する。一方、国内価格は高い世界市場価格に追随することになるため、需要量はこの場合の補助線と需要曲線の交点まで減少し、その国の消費者余剰も小さくなる。しかし、総余剰は元々の均衡点のこの場合は上部に生じた三角形の面積分増加することになる。

 いずれにして、自由貿易によって「小国」の総余剰は自給自足均衡に比べて拡大するため、経済は発展すると考えられ、「自由貿易の利益」を享受できることになる。これが国家間自由貿易の有益性を示す理論である。

 わが国も戦後家電製品などを輸出することで生産者余剰を増大し、外貨獲得によって資源等原材料確保を図って総余剰を拡大し、高度経済成長を達成、国民生活の向上を図って来た。ただ、この場合は理論的な完全自由貿易論のようにはゆかず、輸出価格は国内販売価格より安い所謂二重価格となった。これは各国の関税障壁に対抗し、世界市場での価格競争に勝つためであり、量産技術と量産によるコストメリットがこれを可能にした。しかし、世界市場の競争に打ち勝った一大成功要因は、価格によるものだけではなく、世界に冠たる高品質にあったことは言うまでもない。



 




*47) 本来必要な費用に対して、効率化によってどれだけの便益が得られたかを解明すること。
*48)理論を説明するための仮定として、輸出入に係る物流費用等は考慮しない。

本稿は、TAC中小企業診断士講座「経済学・経済政策」テキストおよび西村和雄編「早わかり経済学入門」東洋経済新報社1997年刊などを参考に編集しています。
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