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続、品質管理再考第6回

2015年11月16日 | ブログ
派生

 1990年代、米国発の優れた経営手法がわが国にも押し寄せた。株主主権とか、M&Aによる安易な膨張、誇張された成果主義・能力主義、それによる過剰な賃金格差など、負の影響と思えるものも多いけれど、ITを武器に、標準化・体系化を得意とする彼らは、サプライチェーンマネジメント(SCM)、ナレッジマネジメント、Con-current engineeringなどを生み出し、これまでの会社のあり方、仕事の進め方をご破算にして、企業を根底から建て直す業務改革である「リエンジアリング」という経営手法を編み出したのだ。

 一方、わが国でも京セラの稲盛さんのアメーバ経営が注目を集め、最近では法政大学の坂本光司先生の「日本でいちばん大切にしたい会社」が称賛されている。これらはTQC(TQM)活動の一環としての小集団活動であり、さんざん聞かされた人を大切にする経営である。日米の今日的な経営手法のルーツを辿れば日本式品質管理に行き着く。

 リエンジニアリングは、1980年代後半から1990年初頭にかけてのアメリカ企業の経営のやり方を、マイケル・ハーマー氏を中心とする経営コンサルタントたちが分析してまとめたものだと言う。最初にアメリカ企業の個々の行動があった。世の中、うまくいった事例をまとめ体系化してひとつの流儀のようにまとめることは自然である。

 リエンジニアリングは従来の「リストラ」(事業の再構築)でも日本的TQCでもないというが、実は1970年代から1980年代にかけて、米国企業がそしてその関連機関が日本式経営を徹底的に研究した結果生まれたものだ。

 なぜ車や家電という身近な工業製品で日本やドイツに遅れを取ったのか。特に日本企業の強みは何かを研究した。米国の経営者は短期的な利益を追っていた為、場当たり的な経営になっていたし、労使関係でも常に対立意識と階層主義で、従業員の企業に対するロイヤリティが薄い。従業員参加型の提案制度なども生まれる土壌になかった。すべて日本的経営の逆だったのである。

 第二次大戦で戦場にならなかった米国は1960年代まではわが世の春であった。大いなる油断があったことは否めない。そしてベトナム戦争で疲弊し、目の前に繰り広げられる産業の衰退に気付き、復活への苦闘に立ち上がったのだ。

 その後のリエンジニアリングにおけるCon-current engineeringにみる複数の部署が同時並行的に協力して製品開発に取り組むなどのシステムは、従来米国では考えられなかったことだという。日本における多能工化、工程分割、組織間の協力などを取り入れたものだ。TQCの顧客第一主義を取り入れたCS(顧客満足)という言葉も頻繁に使われるようになったという。

 日本式品質管理は多くの所に派生し良い影響を産業界に及ぼし続けていたのだ。しかし、その陰で、「21世紀は日本の時代だ」などという褒め殺しに、うさぎの昼寝よろしくゆとり教育を始め、学校教育から統計的な考え方の授業は消えていた(2009年復活)。一方欧米では学校の現場で問題発見とその解決手法に取組む教育を行うようになっていた。

 結果、わが国の現場力は「今や中国やタイ以下」という記事が日経ビジネスに載る(2015年5月11日号)ようなことになってしまった。経営手法に多くの良い影響を与え続けている管理手法を編み出した本家本元の誇りを取り戻す時期ではないのだろうか。



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