12月のテレホン法話 「閼伽堂(あかどう)」(12/16~/31)

2015-12-18 09:33:47 | 法話
「閼伽堂(あかどう)」 
毘沙門堂から不動堂に向かうと、坂の途中で御修復なった朱(しゅ)塗りの鐘楼が左に、小さな切妻(きりづま)の朱(あか)い御堂が右に見える。閼伽堂(あかどう)である。朱(あか)い御堂(おどう)だから閼伽堂だと、勘違(かんちが)いしている御仁(ごじん)も多いようだが、然(さ)にあらず。閼伽(あか)とは神仏に御供(ごそな)えする水のことで、梵語(ぼんご)のアルガの音(おん)写語(しゃご)なのである。だから閼伽(あか)井(い)、すなわち閼伽(あか)水(すい)の湧(わ)き出(いず)る井戸を護(まも)るための覆屋(おおいや)なのであり、関西(かんさい)では閼伽(あか)井屋(いや)と呼ばれることが多いらしい。
嘗(かつ)ては杉皮(すぎかわ)葺(ぶ)きの屋根であったが、草や木が生えて痛みが酷(ひど)くなったので、平成20年5月に、銅板に葺き替えられた。本義(ほんぎ)ならば、杉皮で葺き替えるべきなのだが、材料の調達が難しいので断念(だんねん)したことが、今でも忘れられないのである。
昔から、達(たっ)谷窟(こくのいわや)の御神域(ごしんいき)に座(おわ)します神仏(しんぶつ)の修法(しゅほう)に用いる水は、この井戸から汲(く)むべきとされている。来(きた)る修正會(しゅしょうえ)では、一七日(いちしちにち)の間、後(ご)夜座(やざ)の前に御水(おみず)をいただいて、先(ま)ず毘沙門堂の閼伽(あか)棚(だな)に納(おさ)め置くのである。ちなみに、年頭(ねんとう)に汲(く)まれた若水(わかみず)だけ、香水(こうずい)壺(つぼ)に注(つ)ぎ足(た)すことが許されている。これに香を入れて御神(ごじん)水(ずい)を作るのだが、牛玉寶印を摺(す)るための墨は、この壺(つぼ)に古(いにしえ)より伝(つた)わって来(き)た御神(ごじん)水(ずい)を以(も)って磨(す)られるのである。また、寛政(かんせい)元年(がんねん)に不動堂が現地に移されてからは、眼(め)の神様である姫待(ひめまち)不動(ふどう)尊(そん)の信仰と結びついて、目薬(めぐすり)として御水(おみず)を求める信者が引きも切らなかったという。
早いもので、今年もあと半月で暮れようとしている。大晦日(おおみそか)といえば除夜(じょや)の鐘(かね)で、主役は鐘楼(しょうろう)なのだが、閼伽堂(あかどう)も正月行事の一方(いっぽう)の主役であるから、紹介することにした。水位が高い井戸にも拘(かか)わらず、真冬でも滅多(めった)に凍らない。ここ30年で凍った記憶は、二三度しかないのである。しかも、薄氷(うすごおり)であることは、寒中(かんちゅう)の修行(しゅぎょう)においては、じつに有難い。閼伽堂(あかどう)の神様の成(な)せる業(わざ)であろうか。

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