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小説「霊南坂の星条旗」 その27 by FUNAYAMA 

2007-08-24 11:14:08 | Weblog
軽井沢に来ると、暫しのあいだ公務を忘れ、ゴルフ・コースでクラブを振るのがグルーの楽しみだった。冬は暖房が整っているが、当時のチャンセリー(大使館事務所)や公邸には夏の冷房設備がなく、うだるような東京の夏からしばしば逃避するのはやむを得ないことだ。グルーのゴルフ好きはワシントンにまで聞こえていたほどで、東京にいるときも小金井、朝霞、川奈などでよくプレーをしていた。
「コースの攻め方は、外交戦略に似て役に立つ」
と、いうのがグルーの持論で、また人と人との交流にも役立つと信じていた。大使にならって館員たちもみなゴルフに熱中していた。こういうところはどこの社会でも同じだろう。
この軽井沢には外交官マホットに嫁いだ三女のレビットもカナダから子供たちを連れ、遊びに来ていた。レビットは祖母の絵心を受け継いだのか、油絵が得意で、浅間山の美しさに魅せられたように熱心にスケッチに励み、エルシィはアサマと名づけた愛馬に跨り、軽井沢を闊歩していた。脚が不自由なアリスはゴルフは出来なかったが、トランプのブリッジが得意だった。子供たちの歓声がこだまする雑木林、その孫たちに囲まれて、軽井沢の大使夫妻は幸せそのものの避暑を楽しんでいた。
趣味といえば、大使夫妻はもとより、アメリカ大使館には歌舞伎愛好家が多かった。貞吉も亡兄が猿翁こと猿之助の番頭を務めていたこともあって、多少はその世界にも通じていたので、彼らと梨園の役者たちの演技や劇評を交わすのは、楽しいひとときだった。
アリスも吉田茂夫人雪子の流暢な英語に助けられて観劇を楽しみ、貞吉たちにも切符をおくり、歌舞伎座行きを勧めていた。
グルーも着任早々、松竹大谷社長の案内で歌舞伎座に足を運び、菊五郎の『鏡獅子』を観劇し、
「舞台が織りなす日本の様式美に深い感銘を受けました」と、たちまち歌舞伎の魅力に傾倒するのだ。
夫妻の歌舞伎好きは館員たちの熱をますます上げさせた。そして、さらに、
「日本並びに日本人をよりよく理解するために、自分たちも演じてみたい」と、言い出した。ちょうどこの時期、グルーの部下セシル・ライオンと末娘エルシィの恋が実り、二人の婚約を祝って上演したいという。
もちろんグルー大使に反対する理由はなく、こうして館員たちは『仮名手本忠臣蔵』の三段目返し、戸塚山中の場、おかる勘平道行きを選んだ。
(土曜、日曜は休載させていただきました)
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