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小説「霊南坂の星条旗」 その33 by FUNAYAMA 

2007-09-03 11:44:21 | Weblog
エルシィの婚約者セシル・ライオンが香港出張の際、彼女のためにコカスパニョールの仔犬を買ってきた。
サンボゥと名づけられた仔犬はひょうきんで、邸内を我が物顔で走り回り、アリス夫人のベッドを自分の寝室と思い込み、もぐりこんではアリスを驚かせ、
「サンボゥ、あなたは私とエルシィのどちらを、ご主人さまと思っているの」
と言わせ、みんなを笑わせた。
そのサンボゥを連れてグルーとエルシィが皇居のお濠端に散歩に出かけたときだ。一瞬、目をはなした隙に、サンボゥが薄く氷の張った濠に落ちてしまった。
悲鳴をあげるエルシィ。石垣に取りつこうともがくサンボゥ。とても手の届く高さではない。グルーは助けを求めて交番に走った。
そのときである。通りかかったタクシーの運転手と一人の少年が駆けつけてきた。
「どうしたんだ?」
エルシィが悲鳴とともにサンボゥを指さすと、
事情を察した運転手はすぐさま車からロープを持って引き返し、体に巻きつけると、少年がそのロープを伝わり降り、お濠の水で自分のズボンが濡れるのもいとわず、懸命になっていまにも溺れそうなサンボゥを救い上げたのだった。
エルシィはガタガタ震えているサンボゥを抱きしめ、二人の機敏な行動に、
「ありがとう。ほんとうにありがとう」と、何度も礼を述べ、お金を差し出した。
「冗談じゃありませんよ。そんなもの受け取れませんよ。なあ」
「そうです。要りません」
二人は固く拒んだ。
「ではお名前を」
「いいんですよ、名前なんか。なあ」
「はい」
「でも・・・」
「なにね、困ったときはお互いさま。なあ」
「そうです」
こうして二人は、グルーが戻ってくる前に名も告げず、立ち去っていった。
「なんという謙虚な人たちなんだろう」
グルーは感激したが、事の経緯を聞いたアリス夫人も、
「本当に勇気があって、親切で、しかも謙虚で・・・・」
と深く胸を打たれ、なんとしても感謝の意を伝えたいと強く願った。
そのことはやがて新聞記者の知ることとなり、日本人の美談として紙面を飾り、さらに発展して、運転手と少年を見つけた人に報奨金を出すという記事が新聞に載った。すると偽の運転手が名乗りを上げたりして、また話題を呼んだのだった。そんなこともあって、やっと本物の二人が見つかり、大使夫妻をいたく喜ばせた。
これには、さらに素晴らしい後日談があった。
宮中で皇太子誕生の祝宴が催されたとき、お祝いを述べたグルーに天皇は、
「サンボゥはどうしているか」
と尋ねられた。新聞でサンボゥ事件の顛末をご存知だったのだ。
グルーは天皇の心配りに感嘆の声をあげた。
国家間の友情を築くのも、人と人との信頼に基づく。これがグルー大使の信念であり、
このようにして上は天皇から下は公邸の使用人たちまで、政府上層部から出入りの植木職人までと、幅広く日本人に会って理解を深めていったのである。
           (前編終了)
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著者FUNAYAMA氏、休暇休養と取材のためしばらく休載とさせていただきます。その間「IVYポサリ」によるみなと区ネタを時々載せさせていただきます。ご愛読を御礼いたしますとともに、続篇をご期待ください。
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