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台湾のタイヤル族、先住民の権利を命懸け闘争 日本人研究者「民主的社会の原点」

2017-04-18 | 先住民族関連
西日本新聞 2017年04月17日 06時00分

タイヤル族の歴史をまとめた著書を林昭明さん(右)に手渡した菊池一隆教授=3月28日、桃園市
 アジア有数の自由で民主的な台湾社会の原点には、苦難の歴史を歩んだ先住民族の存在があった。17世紀以降、次々に押し寄せる外来の支配者に抵抗、戦後の住民弾圧ではリーダーが処刑され、その一族も迫害されたタイヤル族だ。愛知学院大の菊池一隆教授は今春、この悲劇の民族の近現代史を出版。「台湾が人権を重視する社会になった背景には、権利と生活のために闘い続けた彼らの存在がある」と指摘している。 (台北・中川博之)
 「どうしてこんな目に遭わされたのかと思うことはあるが、決して誰も憎んではいない」。3月末、台湾北部の桃園市にある角板山(標高639メートル)の集落。菊池教授から贈られた真新しい本を手に、林昭明さん(87)は静かに語った。
 菊池教授は角板山に10年以上通い、戦後の政治弾圧「白色テロ」で処刑されたタイヤル族リーダー、ロシン・ワタン(林瑞昌、1899~1954)の一族の聞き取り調査などを実施。「台湾北部タイヤル族から見た近現代史」(集広舎)を3月に出版した。ロシンのおいである昭明さんも政府転覆を謀ったという「でっち上げられた罪」(昭明さん)で15年間投獄され、これまで何度も菊池教授の聞き取りに応じてきた。
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 山岳地帯での組織的なゲリラ戦が得意なタイヤル族は、圧倒的な武力を有する外来の支配者に徹底抗戦を続けた。しかし、1895年に台湾統治を始めた日本に屈した後は、民族の権利と生活の向上を図るため積極的に協力。太平洋戦争中は忠誠を示すため「高砂義勇隊」として日本軍に志願した人も多かったという。
 日本の医療を学んだロシンは、タイヤル族の医療や衛生環境の向上に取り組み、指導者として頭角を現した。戦後間もない1947年、中国から渡ってきた国民党政府と民衆の間で起きた騒乱「2・28事件」の際は、タイヤル族の人々に参加しないよう呼び掛け、多くの犠牲者を出した政府の弾圧から守った。
 一方で、先住民族による自治や先祖代々の土地を返還するよう政府に強く要求。戒厳令下の52年、共産党員に会ったことを理由に逮捕され「政府の転覆を謀った」として1年半後に処刑された。菊池教授が政府資料を調べたところ、ロシンの判決は当初懲役15年だったが、軍幹部の判断で死刑に変更されていたことが判明。菊池教授は「罪状は完全な捏造(ねつぞう)。政府は先住民族の絶対的な信頼を得ていたロシンの組織力と動員力を恐れ、排除しようとした可能性が高い」とみる。
 国民党政府による世界史上最長の戒厳令(49~87年)の下で行われた白色テロは、拷問による多くの冤罪(えんざい)を生み、4千人以上が犠牲になったとされるが、今なお不明な点が多い。国民党政府の人権侵害の解明を目指す民主進歩党(民進党)政権の蔡英文総統は昨年12月、3年以内に調査報告書を作る方針を表明した。
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 一連の事件でロシン一族は、反政府活動をしたなどとして次男の林茂秀氏(故人)に懲役2年、昭明さんと同じくおいの林昭光氏(故人)に懲役4年の判決が下された。長男の茂成氏(故人)によると、ロシンの処刑後も、茂成氏宅の電話は当局に盗聴され訪問客を調べられたという。父親の葬儀もできず、遺骨はしばらく寝室の仏壇に安置した後、自宅の脇に仮埋葬。処刑から38年が過ぎた92年に墓を建てたという。
 自分たちが経験した弾圧の歴史を教訓に、「みんなが共に手をつなぐ社会になることを願っている」と語った昭明さん。ただ、「全ては(政府の)誤解」と何度も繰り返す姿は、今なお心に深い傷を負っていることを物語っていた。
▼台湾の先住民族 台湾の先住民族は現在16部族が認定されている。人口は総人口の2・3%に上る55万4千人で、タイヤル族は8万8千人を占める。17世紀以降、スペイン、オランダ、清、日本などの支配を受けた台湾では、多くの先住民族が土地を奪われ、同化政策を強いられ、固有の言語や文化を失った。蔡英文総統は昨年8月、「400年間、台湾へやって来た全ての政権が武力征伐を用い、土地を略奪し権利を侵害した」と謝罪し、先住民族の自治の促進などに取り組んでいる。
https://www.nishinippon.co.jp/nnp/world/article/322170
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