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<舞台裏を読む>アイヌ新法 色濃い観光戦略

2019-04-04 | アイヌ民族関連
北海道新聞 04/03 05:00
 アイヌ民族を「先住民族」と初めて明記する新法案は近く衆院で審議入りし、今月中に成立する見通しだ。安倍政権中枢の菅義偉官房長官の意向がにじみ、関係者は「菅法案」とささやく。アイヌ民族が求めた生活支援については保守派からの「特権」批判を恐れて書き込まず、新法案は外国人観光客を増やす観光政策と連動した国際発信の性格が色濃い中身となった。
 菅氏の中で立法化と観光戦略が結び付いたのは昨年8月にさかのぼる。政府のアイヌ政策推進会議の座長として訪れた釧路市のアイヌ民族の集落「アイヌコタン」で、「2020年7月の東京五輪の開会式で民族舞踊を披露したい」と要望された時のことだ。菅氏は視察後、「先住民族に興味を持ってもらい、そのことを発信する。国際親善、国際観光に大きな役割を果たせる」と記者団に語った。欧米などで先住民族への関心が高いことが念頭にあった。
 政府は08年にアイヌ民族を先住民族と認めたが、立法化は遅れていた。アイヌ民族から土地・資源に関する権利や高齢者への生活支援などを求める声が上がるが、保守派の中に特定の民族に限った生活支援につながれば特権になるとの批判があったためだ。菅氏は生活支援に関する熟議を避け、東京五輪までの成立を優先させる道を選んだ。
 法案では、20年4月に開業する胆振管内白老町のアイヌ文化復興拠点「民族共生象徴空間(ウポポイ)」を、政府の「アイヌ文化の振興拠点」と明記した。同年に訪日外国人客を4千万人まで増やす目標と連動させるように、菅氏はウポポイにも「年間来場者100万人」の目標を課した。事務方が50万人とした目標を菅氏が引き上げ、24年とした達成時期も前倒しして、五輪開催の20年度中にこだわった。
 訪日客対応の強化に向け、政府は新千歳空港からウポポイへの導線の整備に尽力。同空港国際線コンコースにはアイヌ民族の装飾を施し、国道36号の拡幅などにも乗り出す。菅氏は周囲に「象徴空間もできて、北海道の観光はどんどん良くなる」と胸を張った。
 法案はアイヌ文化振興に向けた交付金創設や、政府内にアイヌ政策推進本部を設けることには具体的な記述があるが、「先住民族」の定義には触れていない。先住権や自己決定権の規定もないため、一部の市民グループからは「差別の歴史に向き合う姿勢が見えない」と反発する声もある。
 3月27日、新法に対する苫小牧市内での意見交換会後、衆院国土交通委員会の谷公一委員長は「大きな一歩とおおむね高い評価だったが、先住民族の具体的な権利を保障すべきだとの意見があったのも事実」と複雑な表情を浮かべた。
 道内選出の国会議員も「先住民族と認めて地域振興にもつなげようとする法案で、本来は対立する中身ではない」と釈明する。それでも、国会審議には時間をかけず、ほぼ想定したスケジュール通り今月中に成立させる見込みだ。
 「観光を奇貨として、国にアイヌ民族の声が届けられるのであれば、それだけでも意義はある」。北大アイヌ・先住民研究センターの常本照樹センター長は法案に理解を示しつつ、最も大切なのは「五輪後も続くアイヌ政策の継続性だ」と力を込めた。(東京報道 古田夏也、金子俊介)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/292677
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