西日本新聞me 2025/02/16

沖縄・八重山諸島の方言を記録保存 言語学者、九州大准教授の中川奈津子さん(42)=福岡市西区
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国連教育科学文化機関(ユネスコ)によると、世界で約2500もの言語・方言が消滅の危機にある。その一つ、沖縄・八重山諸島の方言を研究し、記録保存に取り組む言語学者だ。「関西方言がなくなれば、関西出身の私も『自分らしさ』がなくなってしまう」。自分事に置き換えて文化の危機と向き合う。
滋賀県出身。京都大大学院で言語学を専攻、日本語の助詞「は」と「が」の使い分けを研究した。どちらも使わない言い方もできるが、それが不自然な場合がある。「自分が話す言葉なのに(明確なルールを)説明できない」。言語の奥深さに引き込まれた。
授業で沖縄の池間方言にも触れた。宮古島の隣に浮かぶ池間島の言葉。「知らない言語を記述したい」。方言に興味を持ち、研究者が少ない八重山諸島をフィールドに選んだ。
初めての調査は2010年。石垣島の宮良地区を研究する予定だったが、現地へ行くと祭りの直前で住民に会えなかった。途方に暮れながら近くの白保地区を訪れ、縁あって古老への聞き取りが実現した。
手は「ティ」、鼻は「パナ」、目は「ミ」…。体の部位など基礎語彙(ごい)を話してもらい、メモや音声で記録していく。
さらに文法。あいさつなどの定型句より他動詞を含んだ表現が好ましい。東京方言の「AがBを壊した」は、白保方言で「AぬBゆばり」。ところが、「ゆ」ではなく「ば」を使う場合がある。やはり地元の人々は使い分けのルールを説明できず、対話を重ねながら理解するという。
八重山諸島にルーツを持つ人々がオンライン上で集い、方言で語り合う「やいまむに勉強会」にも参加し、多彩な手法で言語データを集める。こうしたデジタルデータを活用する人文情報学も専門分野だ。
ユネスコが定める消滅危機の度合いは、アイヌ語の「極めて深刻」に次ぎ、八重山方言は「重大な危機」と厳しい。「言語学の枠を超え、八重山の文化継承につながるデータ作りをしたい」と使命感を抱く。
最近は人工知能(AI)に関心を寄せる。「なぜ生成AIは『は』と『が』を区別できるのか」。AIを使って言語の仕組みを解決したいと考えている。
国立国語研究所を経て昨年2月、九州大准教授に就任した。今年4月に開設される人文情報連携学府の運営に携わる。「九州の方言にも興味はあるが、白保方言の研究は15年で終わらない。手を出したら大変なことになる」。新天地の方言研究には慎重だ。
(野村大輔)





