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こうして妖怪は生まれた 「ゲゲゲの鬼太郎」水木しげるの長女が語る 29日から百鬼夜行展<デジタル発>

2024-06-11 | アイヌ民族関連

大原智也

北海道新聞2024年6月10日 11:00(6月11日 0:47更新)

 「ゲゲゲの鬼太郎」などで知られる漫画家水木しげるさん(1922~2015年)が、生涯をかけて取り組んだ「妖怪画」の秘密に迫る展覧会「水木しげるの妖怪 百鬼夜行展~お化けたちはこうして生まれた~」(北海道新聞社など主催)が29日、札幌芸術の森美術館(札幌市南区芸術の森2)で開幕します。2022年の東京を皮切りに全国を巡回し、札幌が5カ所目となる人気の展覧会。長女で「水木プロダクション」取締役の原口尚子さんに、見どころや水木さんの創作の秘密などについて聞きました。(文化部 大原智也)

「日本妖怪大全」を手にする、生前の水木しげるさん©水木プロダクション

 みずき・しげる 1922年鳥取県境港市出身。太平洋戦争で出征し、南方戦線で左腕を失ったが終戦後に復員。紙芝居画家や貸本漫画家を経て、「ガロ」などの漫画雑誌で活躍する。「悪魔くん」「河童(かっぱ)の三平」などを発表し、代表作「ゲゲゲの鬼太郎」は1968年から6度にわたりテレビアニメ化。「総員玉砕せよ!」など、自らの戦争体験に根差した作品も多い。晩年までに日本の妖怪約千体のほか、さまざまな世界の妖怪も描く。2015年に93歳で死去。妻の武良布枝さんのエッセー「ゲゲゲの女房」はNHK朝の連続テレビ小説や映画となった。エッセイストの水木悦子さんは次女。

 はらぐち・なおこ 東京生まれ。小学校教員を経て、現在は水木さんの作品管理などを行う「水木プロダクション」取締役。

■妖怪画に初めて焦点

 ――北海道では2021年に帯広美術館で「水木しげる 魂の漫画展」が開催され、大盛況でした。今回の「百鬼夜行展」は、どのように切り口が違うのでしょうか。 

 「2015年に水木が亡くなった後、(イベントを企画、制作する)NHKプロモーションから『生前の水木先生の画業を紹介する展覧会をやりましょう』と声をかけていただいて実現したのが『魂の漫画展』。帯広を含め、いろんな場所を回ってたくさんの方に来てもらったので、再び『(2022年の)生誕100周年記念の展覧会も開催しては』と提案してもらいました。水木の展覧会はこれまであちこちでやってきたけれど、妖怪画自体をメインにした展覧会は今までなかった。そこを掘り下げてみてはという話になり、今回の『百鬼夜行展』が実現したんです」

 「水木しげるの妖怪 百鬼夜行展」は全5章で構成され、妖怪画100点以上を含む資料約240点を展示。江戸中期の浮世絵師・鳥山石燕(せきえん)の「画図百鬼夜行(ひゃっきやこう)」や民俗学の父とよばれる柳田國男の「妖怪談義」など、水木さんが所蔵し、参考にしていた妖怪関係の資料も初公開する。

■先人絵師の仕事尊重

 ――記者も水木さんの誕生日(3月8日)に札幌の前会場の横浜・そごう美術館に行きましたが、平日にもかかわらず子供から高齢者まで多くの人でにぎわっていました。若い女性もたくさん詰めかけていて驚きました。

 「(昨年11月公開の映画)『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』が大ヒットした影響ですごく客層が変わったんです。今までは男性の比率が高かった気がするんですけど、この映画の公開後から女性がぐっと増えましたね」

 ――展覧会では妖怪画の創作方法を3パターンに分類して紹介しています。特に水木さんが先人の絵師の仕事を尊重して描かれていることが分かります。

 「(妖怪の姿形は)全部水木の創作じゃないかと思っている人がいるんですけど、いや、そうじゃないよと。水木は昔の人が感じた空気をそのまま絵にし、自分を経由して多くの人たちに伝えたいという気持ちを持っていたんです」

 ――展示では東京・神田の古書店などで水木さんが手に入れた妖怪関連の書籍や、その作者も詳しく紹介しています。

 「江戸時代の和とじ本は30~40冊あり、大正時代以降の書籍も数え切れないほど持っていました。柳田國男の『妖怪談義』はページが擦れてボロボロになっています。鉛筆の書き込みもたくさんあり、この本を基にして多くの妖怪画を生み出したことがよく分かります。鳥山石燕の『画図百鬼夜行』は、昭和40年代に刊行されたものを参考にしていました。この本は同じものが2冊ありますが、いずれも書き込みや墨汁のシミなどがあり、やはりボロボロ。大いに参考にしていたのでしょう。竹原春泉斎(しゅんせんさい)『絵本百物語(桃山人夜話)』や速水春暁斎(しゅんぎょうさい)『絵本小夜時雨』は和とじ本を見ていたようです。当時はコピー機がまだ一般的ではなく、汚さぬよう気を使って描いていたことがうかがえます」

■人気漫画家にも影響

 ――現在の漫画は、妖怪やあやかしが登場する作品が本当に多いですね。水木さんの思いが後進の漫画家にもしっかりと受け継がれているのでは。

 「たしかに、『鬼滅の刃』とか『呪術廻戦』とか流行している作品を見ても、直接ではないにせよ、回り回って水木の影響を受けている部分がきっとあるだろうなとは感じていて。そこはちょっとうれしく思っています」

 ――週刊少年マガジンでゲゲゲの鬼太郎の連載が始まりアニメ化された1960年代後半、原口さんはまだ幼かったと思いますが、娘から見た水木さんはどのような父親でしたか。

 「私が子供の頃は、とにかく漫画ばかり描いている『仕事の鬼』で、子供たちと遊ぶことよりもまずは仕事、仕事。自宅が仕事場だったので晩ご飯は一緒に食べましたが、それも新聞を見ながら。(一般家庭のように)『学校でどうだった?』とか、たわいもない話をすることは全然なかったんですよ。晩年になってからは前よりも仕事が少なくなっていたので、全然違いましたけど」

 ――水木さんは1980年代の一時期、「妖怪はいないのではないか」と悩んだが、海外に行くようになって「妖怪はいると再び確信を持った」と著書で書かれています。

 「昔の人は自分が理解できない出来事を『妖怪の仕業だ』という風にして納得したり楽しんだりしていたようですが、水木が『妖怪がいなくなった』と言っていた頃は世の中の人が前ばかり向き、後ろを振り返ることがないような時代。妖怪のような文化が全否定されることがあったんじゃないかと。一生懸命描こうとしていた連載を途中で打ち切られることなどもあり、だんだん自信を失ったことがあったんだと思います」

 ――水木さんは北海道を訪れたことはありますか。

 「水木が還暦くらい、私は大学生のころの1980年代初めの夏に道東へ家族旅行に行ったことがありました。お土産にマリモを買って帰ったような…。阿寒湖に行ってアイヌコタンも訪れました。水木は『コロポックル』も描いていますが、もともとアイヌ民族の生活や儀式に興味があり、本も持っていました」

■「古い」と古びない

 ――「鬼太郎」は何度もアニメ化され、そのたびに妖怪ブームを巻き起こしてきました。鬼太郎や妖怪たちがいまだに愛されているのはなぜでしょうか。

 「私がよく言っているのは『もともと古かった』から。水木は昔のことを絵にしているわけで、どんどん時代が変わっても、いつまでも古びない。最初から古いから(笑い)。今って、先を見通すのがすごく難しい時代になってますよね。そんな時、ふっと後ろを振り向くと『鬼太郎がいましたね』って。ずっと変わらずにいる。そういったところを安心して見てもらえているのかな」

 ――水木さんは戦争で左腕を失い、「総員玉砕せよ!」など壮絶な戦争漫画も手がけられています。現在はウクライナやパレスチナで戦禍が広がっていますが、もし水木さんが生きていたらどのように発言すると思いますか。

 「いや、もう『バカだな』ってひと言。『(人類は)何も学んでない』って言うでしょうね」

 ――今期の展覧会を楽しみにしているファンに向けて、あらためて見どころを教えてください。

 「一口に言うのは難しいですが、今回の展示を見れば水木しげるが妖怪とどう向き合ってきたかが分かるはず。単なるエンタメ(の作り手)というだけではなく、民俗学者の側面もあります。(背景を含め)単に絵が細かくてすごいということだけではなく、昔の人の思いも乗っている絵だということを見て感じてもらえたらうれしいですね」

「水木しげるの妖怪 百鬼夜行展~お化けたちはこうして生まれた~」

◇会期   6月29日~8月25日の午前9時45分~午後5時30分(7月27日と8月9日は午後7時まで)。会期中無休

◇会場   札幌芸術の森美術館(南区芸術の森2、電話011・591・0090)

◇観覧料  一般1500円(1300円)、高大生1100円(900円)、小中生700円(500円)。かっこ内は前売りと20人以上の団体料金。前売り券は札幌・道新プレイガイドなどで販売中

◇主催   北海道新聞社、札幌芸術の森美術館(札幌市芸術文化財団)、NHK札幌放送局、NHKエンタープライズ北海道

◇企画協力 水木プロダクション。関連イベントなどの情報は同展の公式ホームページ(https://event.hokkaido-np.co.jp/yokai)へ。

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1021815/

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