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地のはてから(上・下) 乃南アサ著 知床で生きた女性を壮大に

2010-12-24 | アイヌ民族関連
(日本経済新聞 2010/12/19付)

 世界遺産の知床半島。『地のはてから』は、大正から高度成長期までを知床で生きた女性の生涯を、壮大なスケールで描いた大作である。

(講談社・各1600円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)
 福島県の農家の娘として生まれたとわは、父が株で大損をしたため夜逃げ同然に一家で北海道へ渡る。だが肝心の入植地は、クマザサが生い茂る原生林。開墾は進まず、漁港に出稼ぎに行った父は酒に溺れて事故死。とわは、一家の危機を救ってくれたアイヌの少年への淡い恋、小樽での子守奉公、そして親の決めた夫との結婚などを経て成長していく。
 とわの父は、第1次大戦がもたらした好景気に浮かれ、投機に手を出してすべてを失っている。一発逆転を狙って北海道開拓団に加わり、想像を絶する極貧生活を強いられるとわの一家は、世界的な金融バブルに踊り、長期的な不況にあえぐ現代日本の状況と見事なまでに重なる。
 さらに、開拓した農地がバッタの大群に食い荒らされる惨事で自然と共存する難しさを感じ、校長先生の家で少女雑誌を読んで東京と地方の発展の違いに愕然(がくぜん)とし、小樽の貿易商の家で子守として働くことで貧富の格差に直面するなど、とわの体験は、そのまま生産効率を優先した近代日本の縮図となっている。それだけに、蓄積した“負”の遺産が、確実に現代にも受け継がれていることが実感できるのではないだろうか。
 とわの父は、国が発行した北海道移住者向けのパンフレットに描かれたバラ色の未来を信じ、開拓団へ加わる。その内容がデタラメだったことを身をもって経験したとわの母は、子供の世代が、やはり国が勧める満蒙(まんもう)開拓団やブラジル移民に参加しようとするのを諌(いさ)める。国は失政の責任をとらず、真っ先に弱者を切り捨てる方針が、いつの時代も変わらないことがよく分かるだけに、暗澹(あんたん)たる気分になるかもしれない。
 ただ、本書は決して悲劇的な物語ではない。思い通りにならない人生に悩み、苦労しながらも、一歩一歩先へと進むとわの力強さには、深い感動があるのだ。派手な事件が起こるわけではないが、等身大の登場人物が、懸命に生きようとあがく姿は、先が見えない時代を生きる日本人に勇気を与えてくれるはずだ。
(文芸評論家 末國善己)
http://www.nikkei.com/life/culture/article/g=96958A96889DE0E2E3E5E7E2E2E2E3EAE3E0E0E2E3E29F8890E2E2E3;p=9694E3E4E2E4E0E2E3E2E5E3E2E4
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