ヒストリカルロマンスアワー

Historical Romance Hour

Ghost Gum Valley

2012年10月03日 | M-N-O

Johanna Nicholls. 2012. Ghost Gum Valley. Simon & Shuster. Australia.

久しぶりのレビューは、オーストラリア人作家による大河ロマンス!



元ジャーナリストが書いたこの小説、私からはハートマーク4つ半

舞台は1830年代の英国植民地ニューサウスウェールズ州です。
流刑地としてどんどん受刑者が送られてくる一方で、少数派だけど英国の上流階級の人たち"Quality"や、"Free Settlers"として自らこの未開の地にやってくる人たちも増えはじめ、さらに赦免を受けて自由になった元受刑者"Emancipist"や、その子供達:生粋のオーストラリア生まれ"Currency Lad/Lass”など、英国とは異なる複雑な社会階層ができあがっていました。


1833年、若きIsabel de Rollandはプランタジネット王家の血が流れる由緒あるde Rolland家を借金地獄から救うため、家長である叔父が薦める相手と結婚することに合意します。

植民地ニューサウスウェールズに住む大富豪Garnet Gambleは、元受刑者のレッテルを「浄化」するため、de Rolland家の借金を肩代わりするかわりに生粋の豪州生まれである息子のMarmaduke Gambleと貴族のIsabelを結婚させようと画策します。

イギリス貴族の娘と結婚なんて寝耳に水のMarmaduke!
自らの結婚式で花嫁に見捨てられたという悲惨な過去があるMarmadukeは、結婚どころか独身女性には目もくれず、人妻専門。
父Garnetととの確執で家を飛び出してからは、経済的にも独立していたMarmadukeは自由奔放な暮らしをしていたのですが、ここにきてまた父の画策に翻弄されることになるものかとかなり抵抗します。
しかし、Isabelと結婚したら、かねてから所有したかった亡くなった母の土地Mingalettaを相続してもいいという約束を受けしぶしぶ承諾します。

Marmadukeのことを「植民地の野蛮人」と一線を引くIsabelと、自由奔放な独身貴族の生活を捨てる気はさらさらないMarmadukeは、初対面から火花が散ります。

しかしGamble邸の華やかさの裏にある謎や過去の幽霊そしてGamble家の人々が、MarmadukeとIsabelを「同志」として結び付けていきます。


受刑者達の貧困な住環境や法律に対する不満などから、暴動がいつ触発してもおかしくない不安定な社会情勢を背景に、家族の確執、名誉を守るための決闘、土地所有への執着、オーストラリア初の劇場の誕生、殺人事件裁判などが話に盛り込まれており、長時間のエピックドラマを見ているようでした。
それに加え、忘れてはならないのがMarmadukeとIsabelの愛。
Marmadukeは婚約した時点で不思議とIsabelの芯の強さに引かれる一方で、不思議な夢遊病に悩まされていることなどがわかってくると守ってあげたいとも思うようになります。
さらに、彼女のいとこSilasが見せる異常なまでのIsabelに対する執着心と彼女の幼少時代の秘密との関わりがわかってくると、MarmadukeはIsabelをSilasから守るため奔走します。
そんな頼りがいのあるMarmadukeにIsabelはどんどん惹かれていきます。
二人にはシェイクスピアや演劇など共通の趣味があったおかげで、最初に打ち解け始めるきっかけにもなりました。

Isabelはオーストラリアという過酷な流刑地・植民地に来て、皮肉にも初めて自由の味を知ります。
Marmadukeの父Garnet Gambleは短気でいつも怒鳴りちらし理解しがたい人物のようでもあるけど、いわば彼の(画策の)おかげでこのような自由や贅沢を味わうことができるようになったのです。
花嫁としてこの家族にせいいっぱい尽くそうと努力します。
彼女が本来持つ愛情の深さや人を信じる心で以って、Garnetも次第に心を開くようになってきます。そして父親と息子の凝り固まった関係をほぐしていき、「浄化」のためだけに英国から取り寄せた花嫁だったのが、彼女のおかげで真の家族へと変化していきます。

力強い物語で印象深いです。
この一冊、私の中では今年のNo.1になると思います。

ヒストリカルロマンスが好きな方にはオススメです。
オージースラングのコミカルさや荒々しさなど、ニュアンスなど分かりづらいと感じる人もいるかもしれませんが、リージェンシーやハイランダーものから一呼吸置いて、新しいものに挑戦してみるのもいいのでは?
私は元々豪州の流刑地・植民地時代には興味津々なので、こんな読み応えのある本(しかもロマンス!)に出合えたのは嬉しいデス。
タスマニアの刑務所跡ポート・アーサーへ行った時は大興奮だったK

この作家のデビュー作"Ironbark"も今度機会があったら読もうと思います!


Ghost Gum Valleyの1ページ目の抜粋をここに↓。
1ページ目からスッとその時代に引き込まれていきます…。

Sydney Town, Penal Colony of New South Wales,

December 1832

Marmaduke Gamble felt a surge of something akin to love for the bawdy mistress of his native land.

 You'll never be a lady, Sydney. But you're my kind of woman. Lusty, voluputuous, gutsy, mercenary - but dead honest for all that. 
 
The marine blue of Port Jackson's giant harbour, busy with convict transports and trading ships under sail, reflected the electric blue of a summer sky so high, so cloudless that Marmaduke was shocked to realise the truth. It had taken four years travelling the northern hemisphere for him to forget the magic of an Australian sky.





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