【遠野物語拾遺三十三話】
橋野の沢の不動の祭りは、旧暦六月二十八日を中にして、年によって二日祭りと三日祭りの、なかなか盛んなる祭りであった。この日には昔から、たとえ三粒でも必ず雨が降るといっていた。そのわけは昔この社の祭りの前の日に、海から橋野川を溯って、一尾の鮫が参詣に来て不動が滝の滝壺にはいったところが、祭日にあまり天気がよくて川水が乾いていたために、水不足して海に帰れなくなり、わざわざ天から雨を降らせてもらって、水かさを増させて帰っていった。その由来があるので、今なおいつの年の祭りにも、必ず降ることになっているといい、この日には村人は畏れつつしんで、水浴はもちろん、川の水さえ汲まぬ習慣がある。昔この禁を犯して水浴をした者があったところ、それまで連日の晴天であったのだが、にわかに大雨になり、大洪水がして田畑にはいうに及ばず人家までも流された者が多かった。わけても禁を破った者は、家を流され、人も皆溺れて死んだと伝えられている。
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【橋野町沢桧】