くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「うたうとは小さないのちひろいあげ」村上しいこ

2017-01-03 05:17:27 | 文芸・エンターテイメント
 図書館で、並んだ背を眺めているうちに目に入った一冊です。
 村上しいこ「うたうとは小さないのちひろいあげ」(講談社)。このタイトルだけで詩歌をモチーフにしていることが伝わってくる。
 開くとカバー袖に「短歌って、心の格闘技かもしれない」。冒頭に目を走らせて、これは読めそうだと感じました。

  白石桃子は、入学したばかりの高校一年生。落とした定期を先輩の清ら(せいら)に拾われ、「うた部」への加入を持ちかけられます。
 高校で友達は作らないと決めていた桃子でしたが、清らの押しの強さや、個性的な先輩方に魅力を感じて入部を決めるのです。
 部長は、恋の歌が得意な大野いと。水泳部と掛け持ちをしている諏訪業平は唯一の男子。清らは彼のことが好きみたいです。
 顧問は難波江先生。彼も短歌への愛情が深く、見事に作品添削をしてくれます。
 しかし、桃子は毎日綾美の家に寄ることを日課にしていました。
 綾美は、桃子の親友なのですが、中学時代のあることから不登校になっていました。桃子が友達を作らないと宣言したのも、彼女のためなのです。
 そんな桃子に、クラスメイトの彩は手紙を託します。綾美に、届けてほしい。
 綾美はすっかり心を閉ざしており、ダークな内容のブログを投稿して嫌な気持ちを発信しています。桃子につらく当たるのも当然だと思っている。
 だけど、彩からの手紙やうた部のみんなからのコメントで、自分も表現することができると気づいていく。
 そんな中、短歌甲子園県予選へ出場するためには、綾美の力が必要になってきて……。
 短歌甲子園、盛岡でやってるんですねぇ。知らなかった。
 ふとした出会いだったけれど、二人が歩み出すのに短歌はいいきっかけだったと思います。
 綾美の机を取り戻そうとする桃子の姿に、彼女を今度こそ守りたいという必死さが出ていて胸が熱くなりました。

「一○一教室」似鳥鶏

2017-01-02 10:05:03 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 元日に読むような本ではないかもしれませんが。
 似鳥鶏「一○一教室」(河出書房新社)。
 「爽やかさゼロのダークミステリ!!」と帯に書いてあるからちょっと心配だったのですが、読後感は悪くないので安心してください。
 ただ、小川くんが集中指導を受ける場面が強烈すぎて、肝心の(?)「一○一教室」ではどんなことがあるのか想像がつかないというか……。竹刀とスタンガンで一方的に痛めつけられるってことでしょうか。
 
 私立恭心学園。カリスマ教育者松田が作った全寮制の中高一貫校です。
 高い進学率、不登校や反抗的な行動も直るといわれ、口コミやSNSで評判になり、全国から入学希望者が殺到しています。
 大学院生の藤本拓也は、おばから研究の役に立つかもしれないと誘われてこの学校の体育祭を見学に行きますが、少年たちの軍隊のような行動に違和感を抱きます。
 間をおかずに、ここに在籍したいとこが亡くなる。葬儀に参列した拓也は、その死に不審を抱く沙雪(母方のいとこで、マレーシアから一時帰国中)に協力して学園を探ることに。
 
 柔道部員であり、同級生の死を見つめてしまった小川。女子部になじめない山口。そして、カリスマ教育者としてインタビューに応じる松田。
 これらの視点が交互に出てきて、学園の異常性と洗脳ともいえる「教育」の実態が浮き彫りにされていきます。
 教育の名を借りた権威の横行。内部での陰惨ないじめと学内のカースト。ゲームや娯楽を禁じられ、勉強と部活に特化した生活を送ることで歪められる少年たち。
 勉強させる割には教師たちはなんか暴力ばっかり振るっているようですが……。

 娯楽に飢えた状態の小川は図書室に通って様々な本を読みます。彼がリベラルな考えをするのはこのためでしょう。
 また、山口がおじいさん(この人がまたいい!)に与えられて読んだのは上橋菜穂子です。
 本の影響も、やっぱり教育には欠かせないのでしょうね。
 でも、似鳥さんごめんなさい。わたしも国語教師ですが、ジャン・クリストフは読んでいません……。

「飼い喰い」内澤旬子

2017-01-01 05:24:47 | 産業
 あけましておめでとうございます
 今年もよろしくお願いします。

 先日、夫と話していたら、
「大学のとき、大型動物についても学べばよかった」
 と言い出したので、わたしは象とかカバとかそういうものを想像したのです。
 いやいや、夫は農学部出身。大型動物とは、豚とか牛を指すのだそう。(ちなみに、彼の研究対象は鶏)

 内澤旬子「飼い喰い 三匹の豚とわたし」(岩波書店)。
 「漂うままに島に着き」を読んだあと、すごく気になって探していたのです。予想通り、おもしろい。
 千葉県旭市で、三匹の豚を飼育し、それをつぶして食べるのです。
 簡単に書けばこれだけですむのですが……。
 企画したものの、小屋を建てるのがものすごく大変で、引き受けてくれたはずの工務店さんには忘れられ、扉は外向きにつけられ、雨漏りする、運動場にモルタルを敷けば作業がうますぎて豚が転ぶ。(蹄が引っかかるようにしなくてはならないそうです)
 半年で出荷と決めているため、借家も最低限の設備のようで、お風呂はつけなきゃならないし、不用品は残っているし、とても冬は住めないくらい寒い。 
 中ヨークシャーの伸、LWDの夢、デュロックの秀の三匹も個性的。
 内澤さんは、豚飼いの苦労をユーモラスに描きますが、浮かび上がるのは大規模経営でないとやっていけないことや、それでも労力に見合う収入ては言い難い現実です。
 豚を飼育して食べる作品としては、「豚のPちゃんと32人の小学生」も読みました。「食堂かたつむり」も。
 近所で養豚をしていたこともあり、鳴き声やにおいなども思い出しながら読みました。
 内澤さんの豚への視点は、とても温かい。食べることへの考えがぶれないのも、清々しくてよかった。
 小豆島にも三匹の骨は持っていったのでしょうか。
 今度は「身体のいいなり」探してみます。NDCは何番なのだろう……。