くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「パパは楽しい躁うつ病」北杜夫・斎藤由香

2009-07-21 05:32:26 | エッセイ・ルポルタージュ
やっと読みました。北杜夫・斎藤由香「パパは楽しい躁うつ病」(朝日新聞出版)。思えば「猛女と呼ばれた淑女」を読んで以来、読む読むと言って入手できずにいました。必ず図書館には入るはず、と言い聞かせてこの日を待っていたのですが、うー、この本の主体は「北杜夫の躁鬱病について」です。
いや、それはタイトルそのままなんだけどね。わたしが気になるのは、北杜夫のバックボーンとでも言いましょうか。もっと輝子のことや茂吉のことを知りたかったことですのよ。
内容としては、ほかのエッセイでも読んだかなーと思うことが多かったけど、なんか言葉の端々にふと新たな発見があるような、父と娘の対談なのですが。
「楽しい躁うつ病」。そう、由香さんにとっては、杜夫の躁状態は楽しかったのだそうです。あちこちで音楽が聞こえて、英語や中国語(学習意欲がわいてくるそう)が聞こえてくる。突然不思議なメモを残す、思いたって「マンボウ・マブセ共和国」を宣言する……。
必ず「株」の売買が絡んでくるので、それは嫌だったようですが。
以前も読んだことがあるのですが、北さんは「遠藤周作さんの家を見ろ、阿川弘之さんの家を見ろ、うちよりもっとひどいんだぞ!」と言うことが多かった。でも、阿川さんちや遠藤さんちでも、父は同じようなことを言っていたとか。
遠藤さんと北さんが対談すると、ゲラを読んだ遠藤さんにほらを交えて都合のいいように書き直される。(北さんは面倒なので読みもしない)
読者からは「見損なった」と手紙がくるそうです。 最後に由香さんが、精神科医である伯父斎藤茂太の言葉を紹介しています。
「ぼくの病院に来る患者さんはみんな一二〇%頑張った患者さんですよ。『雨にも負けず 風にも負けず』という言葉があるけれども、人間、雨に負けてもいい、風に負けたっていいじゃないですか。六〇%で満足するかどうかが幸せな気持ちを充足するんですよ」
そうですねー、自分に甘いと言われそうですが、頑張っていないわたしには勇気づけられる言葉です(笑)。

「図書室のルパン」 河村潤子

2009-07-20 05:59:26 | YA・児童書
えっ、給食を図書室で食べるの!?
ちょっと信じられません。本に食べこぼしがつくことだってあるし、カウンターが汚れると思うんだけど。しかもこの学校のシステムは、週に二回の稼動(木曜に貸し出し、月曜に返却)で、返された本は図書委員のすぐ足下の箱に入れるのです。
小学校の五六年生ですよ。汁ものをお椀ごと床に落としてしまうことだってありうると思うのです。その危険なシステムはやめたほうがいい!
河村潤子「図書室のルパン」(あかね書房)の対象年齢は、多分小学校中学年くらいでしょうか。二年生の亜里沙(あだ名はアリンコ)と春樹(ハルマキ)、六年生の優子と昇がメインキャラクターです。
優子はあまり周囲に関心がなく、でも誰かと比べられるのは我慢できない性格。「伝説の図書委員」と言われた恩田さんにライバル意識をもっています。昇は恩田さんの弟で、優子とは席が隣同士。
委員会に行く前に大急ぎで給食を食べていると、昇にこう言われます。
「そんなにあわてて食べんでも、給食を図書室に持っていって食べたらええのや」
「お姉ちゃんも、そうしてたみたいやで」
でも、本を借りに来る子だって給食を食べてから来るものではないですか。放送委員は給食中の仕事だからわかるけど。この学校、みんな揃って「ごちそうさま」じゃないのかしら。食べ終わったら自分だけ片付けて昼休み? 不可解です。
優子が貸し出し準備を終える頃に、五年生の委員がやってきます。彼女は以前長机に牛乳をこぼして優子に注意されていました。
一人で給食を食べるのはさみしいから、自分も教室で食べてきたとその子は言うのですが。
大体、返却受付は昼休み後半の十五分だそうなのに、図書室で食べる必要ないでしょう。片付けにいく時間のことを考えると、かえって迷惑だと思います。(所定時間までコンテナに入れないと給食センターが困るので、片付けは図書委員が作業時間中に交代ですることになりますよね)

まあ、それはひとまずおいておきましょう。この図書室で、本が紛失するのです。「世界の大かいとう」、亜里沙が借りた本で、表紙にはアルセーヌ・ルパンが右目に丸い眼鏡を光らせて描かれています。(この本でいちばん感心したのは、この片眼鏡を「モノクル」と呼ぶという知識でしょうか……)
亜里沙はたしかに返したし、優子も受け取った記憶はある。でも、図書カードに返却印はなく、本も見つかりません。
途方にくれる亜里沙と優子は、授業を抜け出してまで本を探しにいきます。春樹と昇も。
結局本は、自称「ホームズ」の昇が発見するのですが、この事件を巡る先生たちの対応もちょっとどうなのかと思うのですよ。
月曜に返却された本は、火曜日に図書委員たちが書棚に戻すのだそうですが、返されていない場合は顧問の三谷先生から担任に連絡がいくのだそうです。
ひぇー、厳密! 週に一回しか借りられないのに、月曜には必ず返す!
ということで亜里沙は担任の先生から叱られます。
こういう図書室を運営する三谷先生って、学校図書館の役割をどう考えているのでしょうね。学習センターとしての位置づけよりも管理第一に考えているのかしら。それにしては昼休みに図書室についていないみたいだし。
担任は厳しい人なので、こういう対応なのは理解できます。でもさー、三谷先生、そんなに管理体制を行っているのに、図書室鍵かけてないじゃない? 授業中に四人が入りこんでしまえるんだよ。勝手に持っていく子はいないのかしら。
なんだかとってもずれているのです。
春樹がルパンの名前を知っていることに亜里沙が驚くシーンがありますが、その説明。
「ルパンは、フランスの人が書いた本の主人公で、かいとう紳士と呼ばれるどろぼうだ。もっとも、春樹が言っているルパンは、彼の孫だという、どろぼうがかつやくする、アニメの方のルパンかも知れなかったが……」
今時、アルセーヌ・ルパンの挿絵を見てルパン三世を連想する小学二年生は、果たして全国に何人いるでしょう。
試しに息子に聞いてみました。
「ルパンって知ってる?」
「うーん? ルパン? わからない」
勉強部屋の本棚には何冊か入っているのにこのていたらく。
例えばお父さんの趣味等で「ルパン三世」(いちばん目にとまる確率があるのは「カリオストロの城」かな)を見たとしても、あのアニメから現代の小学二年生がアルセーヌ・ルパンにたどりつくのは難しい。
幼年文学にけちをつけるのもどうかとは思うのですが、このずれた感覚が随所に見られるのが残念でした。
ちなみに、発行は2005年ですよ。

「西の善き魔女」③ 荻原規子

2009-07-19 05:21:32 | ファンタジー
よーむーのーおーそーいーよー! しっかりしろわたし! やっぱりそろそろ四十になる身でこの小説はキツイのか。①②と比較的スムーズにいけたのに、③の終章を読み終えるまでにすでに半月経ってしまいました。荻原規子「西の善き魔女」③(Cノベルズ)です……。
つまらないわけじゃないんです。権謀術数どんと来い! なんですけど……。どうして読めないのか自分でもわかりませんでした。
王宮にやってきたフィリエルたち。棋士を目指して研究所入りするルーンも一緒です。いよいよ女王候補のお目見えも間近に迫り、フィリエルはアデイルと対になるドレスでパーティに参加します。「紅ばら白ばら」の物語を知っている人ならばこの姿を無視することはできないでしょう。
そこに食いついたのはリイズ公爵です。そう、ルーンをさらって行ってひどい拷問をした--。

時間をかけて読んで、やっと「西の善き魔女」が、外交にたけた女たちの比喩であることがわかりました。いや、今までも出てきましたけどね、このフレーズ。
読む前は、魔女に願いを叶えてもらいにいくのかなぁ、なんて考えていたので。
基本的にわたしは王宮のようなきらびやかな世界を苦手としているのかもしれません。④はいつ読み終わるのでしょう……。

ブックトーク《ダマサレタ!》

2009-07-18 05:37:44 | 〈企画〉
ブックトークをやることになっているので、ネタ出しをしていました。まずテーマを決めて、それに合う本を選びます。「きらきらブックトーク」も少し読みましたが、対象年齢が少し低く設定してあるので返却してしまいました。
小説以外の本に目を向けさせることを考えて、いろいろ手に取ってみました。

テーマ「ダマサレタ!」
まずは「だまし絵百科」(筑摩書房)の図版を使って、人間の目がトリックにひっかかりやすいことを話します。視点を変えると見方も変わることを加えたいですよね。
ここは桑原さんのほかの本や松田道弘さんの本、エッシャーの画集もいいかもしれません。
そして、手軽なテーブルマジックの本を一冊。すぐできそうな技があれば挑戦してみます。
わたしは「即席マジック入門事典」麦谷眞里(東京堂出版)という本の「つながるクリップ」をやってみました。千円札にはさんだ二本のクリップが、つながるというものです。
まずお札を縦半分に折ります。三分の一を折り返してクリップをとめ、逆をまた同じくらい折って、手前と真ん中をもうひとつのクリップでとめます。こうすると、紙をZ状に折ったことになりますね。お札の両端を引っ張ると空中でクリップがつながるのです。でも、勢いよく飛んでいくので行方がわからなくなるかも(笑)
つながらない場合は、クリップをはさむ位置が違うのです。一枚めと二枚め、二枚めと三枚めを綴じてある場所を入れ替えてください。
最後に「アクロイド殺し」でも紹介しようと思っていたのですが、うちの図書室にはなかった……。「そして誰もいなくなった」もみつからないので、今回はクリスティの「探偵名作集」(岩崎書店)から。
とりあえず「メンハーラ王ののろい」と「のろわれた相続人」を読みました。うーん、作品の中でハンセン病にふれたくだりがあって、またまた考えさせられてしまったのですが……。
ミステリの古典ともいえる作品が、中学生のすぐ手に取れる場所にないのは寂しいですよね。もう少し点検してみます。
ただ、やっぱり外国ものはしっくりこなくて悩みますね。訳のせいなのかなー。

「植物図鑑」有川浩

2009-07-17 05:18:35 | 文芸・エンターテイメント
先に言ってほしいっ!
仙台で見つけてすぐ買ったんです。有川浩「植物図鑑」(角川書店)。次に行った店で、なんとサイン本を売っていました……。
もう一冊買うかどうか迷ったのですが、やっぱり諦めました。くすん。
というのも、わたし「阪急電車」が駄目だったんです。なんでかなー。パターンが見えちゃったから?
出会って恋心を打ち明けて深い仲になる。そりゃ恋愛ってそんなもんです。それはわかります。でもなー、世間的には「有川浩=ベタ甘ラブコメ」なのかもしれないけど、有川さんの本質はアクションだと思うのですよ。そこにいたるまでの過程が。

さて、わたしはふきのとうの天ぷら、好物です。さも苦いように書かれていますが、うまいですよ。
わりと山菜を口にする機会はある方だと思います。昨日も蕗の煮付けを食べました。
ただ、この本はかなりマニアックな(失礼)食材をチョイスしているものですゆえ、自分で料って食べるのは難しいでしょうね。ノビルだのイタドリだの、見分けがつかない人の方が多数でしょう。
でも、本当においしそうなんですよイツキくんの料理は。

わたし、この本を読んでいる間に、下唇を虫に刺されてしまいました。食べものがしみる……。薬もぬれないし刺激しないですむような場所でもありません。いたいよいたいよー。
そんな状況で読んでいますから、どこを読んでもおいしそうに思えてくる。
個人的にいちばん気になるのはノビルとセイヨウカラシナのパスタ。巻末にはレシピもついています。かといって作れるものでもない。
さやかとイツキの野草狩りがすごく楽しそうで、山歩きもいいものだよねーと思うことしきりです。わたしも図鑑を買おうかな。

「名刀中条スパパパパン!!!」中条省平

2009-07-16 05:08:04 | 書評・ブックガイド
無人島に一冊だけ本を持っていくとしたら。
わたしはこれですね。「名刀中条スパパパパン!!!」。筆者は中条省平です。書評集。
書評のわりにあらすじの割合が多いのに加えて、しかもわたしと読書傾向が違うのです。もし、一人で徒然を過ごすとしても、このあらすじの空白を埋める作業をしていれば結構気が紛れるような。
でも、かなりテンションが特殊なので、ずっと読み続けるのは難しいでしょうね。斎藤美奈子とナンシー関が好きって以外の趣味も合わないし。
斎藤女史と同じ本を紹介しているのに、なんかタッチが違いますよね。
例えば中条さんは村上春樹を好評価していますが、「海辺のカフカ」は駄作だと言ってみたり。斎藤さんの「趣味は読者」の「カフカ」の項を読み返しちゃいましたよ。
ちなみに、無人島に持っていく本、ミステリ作家や書評家の皆さんへのアンケートによると、一位は「ドグラ・マグラ」です。なんで? 「瓶詰地獄」のせいかな。「パノラマ島綺談」も多い。
川原泉は「広辞苑」、北上次郎は「持っていかない」と答えていました。
そういえば、わたしもこの本をどこかにしまいこんでしまいました。まあ、無人島に行く予定はないのでいいことにしておきます。

「カラフルな闇」まはら三桃

2009-07-15 05:35:06 | YA・児童書
あっ、そういうことだったのね! やっとわかりましたよ。クリシュー先輩が急に「里中さん」なんて呼ぶので気になっていたんです。だって地の文は「志帆ちゃん」なのに。
まはら三桃「カラフルな闇」(講談社)、デビュー作であります。
「最強の天使」はこの続編。だから、なじみになったクリシューくんも志帆ちゃんも智恵さんも出てきます。ただ、こっちは志帆ちゃん視点だから若干違いますけどね。
親の離婚で傷つき、昔住んでいた家に帰りたいと思う志帆。父が設計し母がデザインしたその家は、志帆にとって大切な存在なのです。
そんなとき、地元で「暗闇女」の噂が流行します。全身黒ずくめの服を着て、黒い髪をたらした女。目撃すると不幸になるという人もいれば、幸福が訪れるという人もいます。
志帆の学校の佐伯くんは、暗闇女を目撃して、短距離走の学校代表になりました。(三番手だったのですが、前の二人が転倒したため)
志帆はこの「暗闇女」の情報を収集しています。ある理由から……。

クリシュー先輩と「最強の天使」の周一郎で、多少の乖離があるように感じました。同一人物なのに。
でも、作品の背後がよく見渡せたのでおもしろく読めました。志帆ちゃん結構いろいろあったのね。

「最強の天使」まはら三桃

2009-07-14 05:15:39 | YA・児童書
一筋縄ではいかない頑固じいさんと、かん黙な後輩。この二人からもらった二通の手紙が、周一郎の周囲を変えます。
「最強の天使」(講談社)まはら三桃の二冊めの単行本です。
「たまごを持つように」で、弓道部員たちの熱い思いを描いた作家に興味をもったのはいいのですが、どこにも売ってないし。しかも、「たまご」も買った店でしか見たことがありません。その後再入荷されて平積み展開されているのに! ダ・ヴィンチにも紹介されたのに!
でも、I図書館を丹念に探したらありましたー。うれしー。
印象としては、椰月美智子の「しずかな日々」に似ています。母子家庭の一人息子、祖父とは音信不通、転校の危機。でもおじいさんの性格は正反対ですけどねー。
周一郎がひそかに思いを寄せている志帆ちゃんがかわいいです。あ、周一郎も中学生としてまっとうで好感がもてますよ。クリシューという愛称がすてき。
出て行った父親を「情けないやつ」だったと認めるまでの物語でもあると思います。それはおじいさんにしてもそう。自分の肉親は「最強」と思っているおじいさんにとって、これはかなり大きな痛手です。そう思いたくないから、智恵さん(周一郎の母)を責めたんでしょ。
周一郎もやっと昔の自分と向き合うことができたし、志帆ちゃんとのエピソードもかわいいので、なかなかいいです。でも発見しにくいかも。

「泣き虫しょったんの奇跡」瀬川晶司

2009-07-13 05:33:14 | エッセイ・ルポルタージュ
「泣き虫しょったんの奇跡」瀬川晶司(講談社)
奨励会で二十六歳まで四段がとれず、アマとして活躍後、世論の動きに後押しされてプロ棋士になった方の自伝。
これ本当に本人が書いたのっ! と叫びたくなるほどうまい。一級の成長小説として読めます。
 これも泣きましたとも。幸い近くに誰もいなくて見られずにすんだけど。プロ棋士を志す瀬川さんの話題はニュースで知っていから、これからどうなるのかわかっているのに、ページをめくるのがもどかしいのです。瀬川さんと同世代のため、少年時代からのエピソードがいちいちなつかしいのも、心をくすぐります。幼なじみでライバルの健弥くん、恩師、プロやアマの棋士たち、みんないい人だよねぇー。
とくに後半、人物の登場の仕方がものすごくよくて、羽生さんのエピソードはすばらしいの一言です。

「ヤンネ、ぼくのともだち」ペーテル・ポール

2009-07-12 05:47:51 | 外国文学
赤い髪、女の子みたいな顔、抜群の運動神経でさっそうと自転車を操るヤンネ。「ぼく」たちは彼に魅了されるけれど、どこに住んでいるのか、家族はどんな人なのか、しかも苗字さえも明かしてはくれない。
「クリッレ年鑑(カタログ)」と呼ばれるほど数字が好きな「ぼく」に、ある日デカが聞く。ヤンネの自転車を示して、これは誰のものかと。
「ヤンネ、ぼくのともだち」(徳間書店)。スウェーデンの作家ペーテル・ポールのデビュー作だそうです。(訳ただのただお)
「ぼく」は中高一貫の名門校の一年生。遊び友達は地域の子供たちです。
自転車に乗っていて知り合ったヤンネとは、親友といっていいほど仲良しなのですが、ある重大な秘密を隠しているようなのです。両親はそのことに気づいているのですが、なにも言わずにヤンネを歓迎してくれます。
ペットのハムスターに夢中になるヤンネ。「神様」のことを知らないヤンネ。自転車で階段を下り、橋の欄干をひらりと渡るヤンネ。「ぼく」にとってのかけがえない友達。

読み終わって、巧妙に隠されたヤンネの真実に溜息が出ます。クリッレとヤンネの友情は、実に繊細で痛々しい。
わたしもある程度はあたりをつけて本を読むのですが、最後の最後まで明確な「真実」を語るのが避けられているため、一読では意味がわかりにくい部分もありました。
ヤンネはなぜ、このように悲劇的な末路をたどったのか。また、虐待はなんのためなのか。靴屋の親子はどのように関わりがあるのか。
ミスター・G・Gが『家の友達』であることが、はじめの謎を解く鍵なのでしょうね。彼か誰かが火をつけたことが警察にばれてしまったので、その原因を作ったヤンネを始末する必要が出てきた。もちろんヤンネはクリッレに口止めはしているのですよ。でも、少年だったクリッレには自分の証言がどのような結末をたどるのか知らずにいる。彼はかなり鈍感です。
でもね、この物語を彼は大人になってから振り返っているのです。(学校の同窓生がのちに議員になったことを書いてあります)
だから、自分が何をしたのかは分かっている。それをあえて自責を避けて書いているのです。
なぜか。これは、「初恋」の物語だからではないでしょうか。
クリッレの視点で物語は展開します。
彼にとってヤンネは、英雄であり親友。ヤンネが姿を隠したときはうろたえ、嘆き悲しみます。ヤンネも、彼になら秘密を打ち明けてもいいと思っている。でも、この秘密のせいで彼を失ってしまうかもしれない。その可能性がある以上、伝えることができないのです。この葛藤、恋でなくてなんでしょう。
現在のクリッレには、分かっているはずです。だから明言を避けながらも自分の気持ちを丁寧に書いています。
虐待は、ヤンネの失敗が新聞沙汰になったからかな。
で、靴屋の親子ですが。
わたしは、これをミスリードの小道具の一つかと思っていました。でも、もしかすると、これもミスター・G・Gに関わってくるのではないかという疑問が浮かんできました。
ゴールキーパーだった息子は、当然彼の教え子です。そして、別荘で火をつけられて亡くなっています。(無理心中ということになっています)
山小屋に放火した最後の事件と似ていませんか。なぜミスター・G・Gたちはそこに火を放つ必要があったのか。
それは、クリッレに対する復讐の舞台だったのではないでしょうか。ヤンネはそれを知っていて、違う小屋を用意したのです。クリッレを失わないために。 でも、それには代償がいりました。それも承知のうえです。
この辺りのことを、もしかしたら映画では詳しく語っているかもしれませんね。いや、わたしの考えすぎかもしれませんが。
最後にクリッレを殴って、ヤンネは姿を消します。
ところで、わたしは表紙の絵を見てびっくりしました。だってヤンネの顔がかわっているように見えたのです。もちろん、勘違いなのですが、ヤンネのイメージを自分がかなり明確に抱いていることがわかりました。