くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「高校生のためのメディア・リテラシー」林直哉

2010-04-24 05:30:45 | 社会科学・教育
「私たち高校生の目から見れば、部活動の中に価値の差はありません。野球でも、音楽でも、高校生活のなかで活躍の程度に差はあっても、一人ひとりにとって同じ価値があります。それなのに、なぜ私たちの活動の価値について、大人の眼で優劣を決めなければならないのでしょうか」
高校生の活動について報じた新聞記事を一年間採集して検討したところ、野球に関するものがなんと八割。「高校野球ばかりがなぜもてる」疑問を感じた放送部員たちは、取材を通して情報にふれ、それをどう伝えていくかディスカッションする中で、メディアの役割について考えを深めていきます。
これ、映画化希望です! すごいおもしろいのよ。ぜひ文科系部活動の物語として、そうでなければ改革する高校の全体のうねりを描く作品として作ってみてほしいのです。映像文化には疎いわたしではありますが……。それほどドラマ性のある本なのです。
林直哉「高校生のためのメディア・リテラシー」(ちくまプリマー新書)。この題名この装丁で、一体誰がこんなに勢いのある「物語」だと思うでしょう。わたしも、てっきりオカタイ本だとばかり思っていました。森達也の「」()の類書みたいなもんなんだろうと予想していたのです。これは結構ためになりましたが、文中から抜き書きして整理し直さないと理解出来なかったので……。
随分前に買ったのに、手をつけずにいたのはそのせいです。でも、メディア・リテラシーをとりあげなければならない日はやがてやってくるのだから、今のうちに知識を拾っておきたい。修学旅行の新幹線の中で読もう、と鞄に突っ込みました。
ところが、読み出したら止まらない。ほー、ひゃーっ、へぇー、といちいち納得しながら読んでしまいました。
中でも圧巻は、生徒たちの手で「卒業式」を変えていく場面です。
全体がなんとなく盛り上がらずにいた文化祭。映像で準備期間を振り返り、全員が「歯車」として関わってきたことを追体験することで共感が生まれる。これは「伝えたい内容と結びついた表現」が、彼らの心を動かしたということなのでしょう。
学校は変わっていきます。その中で、「卒業式とは、卒業生から在校生に、積み重ねた実践の精神を引き継ぐ場である」という基本理念を打ち出し、それを具現する場として生まれ変わる。実践までを支えるのは「三年有志」の熱意です。
学年会で否定されても、何度も何度も、自分たちの卒業式を自分たちで創りたいと訴える。
そこに助け舟を出すのは生徒会顧問団。結局、二十分の枠をはみ出さない約束で、生徒会主催の第二部を行うことになるのです。
泣きそうになりました……。林先生、放送部と生徒会の指導をされているのです。自分たちの「伝えたいこと」を表現させようとする思い。それをいかに伝えるか、そのためにどうすればいいのか。
「メディア使い」を育てるために林先生がどのように工夫されているかがよくわかる、すばらしい著作です。リテラシーのことについても事例をもとに書かれています。声を大にしておすすめ。

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