くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「昨日がなければ明日もない」

2019-01-21 21:41:19 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 寒気、止まりません。
 帰ってきて結末を読み終わって30分は経つのに、寒くて寒くてこたつから動けない。風邪がぶり返したのではない、と思います。
 宮部みゆき「昨日がなければ明日もない」(文藝春秋)。杉村三郎シリーズの五作目です。

 今回は、「性」についてのテーマが感じられました。誰もが同じバランスで受け止めるのではない、と。
 「絶対零度」「華燭」「昨日がなければ明日もない」の三作収録。時期は2011年から翌年にかけて。(杉村は自分と同年代かな、と感じました)
 表題作品は最終話ですが、今回のメインは「絶対零度」だと思いました。

 杉村を訪ねてきた主婦は、娘の優美が自殺未遂で入院しており、婿から会わせることはできないと言われていると相談します。
 今まで何事も自分に打ち明けてくれた娘が、全く音信不通になるのはおかしい。入院しているらしいクリニックを訪ねても門前払いで、どうしたらいいのかわからない。
 杉村が調査を続けるうち、娘婿の佐々には逆らいがたい先輩がいることを突き止めます。彼らはホッケーチームを作っており、グラウンドやメンバー確保に手を焼いている。ホームページでは練習に積極的でない田巻という男に制裁を叫んでいます。
 田巻の情報を探るうち、妻が転落死し本人は行方不明であることがわかります。

 ものすごく、辛い真相です。
 何が嫌かって、優美が自殺未遂を起こしたのは佐々の「浮気」のためだというのが、あとになって分かることです。
 田巻夫妻の幸せを壊すきっかけを作ったのは、間違いなく優美なのに、事件のあと事情聴取まで転落の事情を知らなかったのです。佐々が先輩たちと一緒にそこまでの行動をしたことにショックを受けたように感じました。
 二十四歳という年齢。彼の失ったものの大きさに、ため息が出てきます。
 依頼は必ずしも「善」とは限らない。そう感じさせられる三篇でした。鮮やかに真相が反転し、語り手の前に「犯人」が現れる。なんとなく「火車」を思い出しました。
 そして、伴侶としての愛と信頼を裏切られたことが、どれだけ彼には辛いことだったのか、ということが痛いほど伝わってきたのです。

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