くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「氷の海のガレオン/オルタ」木地雅映子

2013-06-19 21:13:43 | YA・児童書
 仙台に出張でした。去年単独の出張が一回しかなかったので、行く前から時刻表を調べてみたり……。きっと書店に寄るだろから、コンパクトに文庫を読もうと、前日図書室から読み始めた「氷の海のガレオン/オルタ」(ピュアフル文庫)を持っていったんですが、この本に加えて駅前で買った本がなんかシンクロしていて、考えてしまいました。
 この本、以前から興味はあったもののなかなか読めずにいたのです。なんとなくデカダンな感じがして。読むとそうでもないんですが、ある程度読者を選ぶとは思います。
 斉木杉子。六年生。名前が古臭いとか行動が変わっているとか言われて敬遠されています。同級生とはまるで言語が合わない。(話が合わないんではないですよ)
 語彙が少ない彼らは、杉子の言うことを考えることすらしません。言葉の数が少ないと、相手のことを理解できないのです。自分の知っていることしか、拾い上げることはできませんからね。
 クラス委員を押しつけられたり、仲間外れの女の子につきまとわれたり、気の合う先生を見つけて仲良くしていたら中傷されたり、兄が高校をやめてしまったり、両親が二人でいなくなったり、と杉子の周囲は慌ただしいのです。
 同じような行動をしているはずなのに、弟のスズキには友達もいるし学校ではもてているようです。(ただし、彼は全くうれしくなさそうですけどね)
 一部の中心的な女の子たちが「かれ」がほしいと話していることを、杉子は冷たい視線で眺めていますが、夢のなかには恋い焦がれる存在の男性が現れることもある。
 彼女にとって庭にあるナツメの木は大きな支えでもあります。雨の中で物思いにふけることも。あ、この木には名前がついていて、「ハロウ」というんですよ。
 世の中みんなが嫌なものというわけでもなく、家族とかハロウとか音楽の先生とか、杉子をわかってくれるものもあるのです。
 もう一編の「オルタ」が。
 小学一年生、隣の席の男の子に邪魔ばかりされて学校が嫌になり、母親もそれを認めるという物語です。
 オルタはスカートをめくられて、そこに消しゴムを入れられる。まためくられてそれを出す。やめるように言うと、自分の消しゴムがそこにあるのだから仕方ないといわれて愕然とします。
 ここにも、言語環境のすれ違いがありますよね。
 さらに、オルタはスペクトラム傾向があり、隣の席の貴大くんも同じような要因がありそうな気がする。お母さんはなんとか彼のことも救いたいと思っているようですが、担任の先生はプライバシーの問題だからと取り合ってくれません。
 最終的に母子は学校に行かないことを選択します。
 学校って、無力だよな、と思いました。自分にとって嫌なことを重ねられて、オルタはとてもつらかったのだと思います。担任が貴大くんのことをオルタよりも気にしていることもわかります。
 「オルタ追補、あるいは長めのあとがき」を読むとお母さん自身(構造的に木地さん本人ととれる書き方をしています)が学校というものに抵抗があるのだろうと感じさせる部分もあるのですが。
 「杉子」にしろ「オルタ」にしろ、普通の女の子の名前とは言えないと思います。ネーミングにはある種の特別性があると思うので、思春期渦中の女の子たちにはぐっとくるものも多いのではないでしょうか。


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