くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「ペテロの葬列」宮部みゆき

2014-06-25 21:34:44 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 なぜ、この小説のタイトルが「ペテロの葬列」(集英社)なのか。
 おそらく、発想の起点がこのレンブラントの絵画だからでしょう。キリストのそばに最後までいながら、自分は弟子ではないと否認した聖ペテロ。師を否定した殉教者。
 作中の羽田光昭は、腹心であった御厨尚憲を裏切ります。彼らは、詐欺事件の黒幕として、いくつもの事件に関与します。いかに商品を信用させるか。いかに金を出させるか。そのような技術を指南するのです。
 御厨の遺体が見つかったとき、わたしはイエスの復活をイメージしました。架空取引と宗教は、共通点が多いように思います。こんなことを言ったら叱られるかもしれませんが、扱っているものの実質は目に見えない。
 自分のそれまでの罪を拭うように行動する羽田は、悪意とともに存在する〈飢え〉を撒き散らしませんでした。それは、前作「名もなき毒」とは異なった行動でもあります。
 けれども、事件を発端として、周囲の人々の生活が暴かれていきます。
 杉村三郎にも、新たな道が拓けます。しかし、それは読者にとってはかなりやりきれないものだともいえるでしょう。
 噂に聞いていたので、なんとなく予想してはいたものの、ため息が出てしまいました。「探偵」としての出発は、嬉しいものではありますけどね。
 
 今回の作品の中で、青色申告の会長さんを表した部分があります。
「人は基本的には善人だ。そして、おそらくこの社長のような人は、どんな状況に置かれても善人であろうとするだろう。まわりに流されず、正しいことと間違ったことを、自分のなかでしっかりと見極めて行動するだろう」
 わたしも、このようなスタンスでいきたいと思うのですけど、難しいですね。

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