くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「パドルの子」虻川枕

2017-08-31 05:50:19 | YA・児童書
 仙台出身作家さんとのことで、書店でPRブックレットをもらったのです。
 で、興味をもって読んでみました。
 虻川枕「パドルの子」(ポプラ社)。わたしより二十歳も若い! 新鋭ですね。
 わたし、実際に屋上にプールのある学校に勤めたことがあります。
 水泳部が活動していました。
 この水無月中学では、屋上プール重要です。だって、本当は先日までなかったものなのですから、
 じゃあ、何があったのか?
 生徒が自殺したために立ち入りを禁止された屋上と、天文台です。
 仲が良かった三輪くんが転校する日、「ぼく」こと水野耕太郎は別れの挨拶をしたくないばかりに旧校舎の屋上へ続く踊場に逃げます。
 三輪くんがいなくなると一人になってしまう水野は、その後も踊場に通いますが、突然の水音に驚き、鍵がかかっているはずの屋上に飛び出してしまいました。
 そこには大きめの水たまりがあって、同学年の美少女水原さんがバタフライで泳いでいたのです!

 水原さんは水野にも水たまりに入るように誘い、この現象を「パドル」と呼びます。
 次第に、パドルを行うと現実世界に何かしらの影響が現れることがわかってきて。
 一種のパラレルワールドと考えていいのかな? 「携帯伝話」(誤変換じゃないですよ)や「自動車」が消え、「公衆伝話」にはお釣りが出るようになる。
 でも、実際最も大きな違いは「水源」です。

 この世界には雨が降らず、ある国の「水源」が水を浄化している。
 そのため日常的に節水が必要で、ときには大きな事故につながるほどの放水が起きることになります。
 水野の父はこの水源を研究しており、近隣の国に単身赴任中。母は警戒警報が鳴ると不安になります。
 水源がなければ世の中の事故も減り、もっと水も有効に使えると考えた水野は、蒸発した水分を集める飛行船をイメージします。(このとき、父はパイロットになっています!)
 でも、うまくいったはずの飛行船計画は翌日にはもとに戻ってしまう。
 そして、パドルには三輪くんも絡んでいることを知った彼は、自転車で会いに行くと決意します。

 物語の舞台は東北地方で、三輪くんは隣の県のすごい田舎町に引っ越しています。
 なぜ東北とわかるかというと、担任の大森が中学時代に野球で東北大会出場権を得たから。
 野球部はこのとき練習第一の環境を認められ、授業よりも練習をするような状態になったため、耐えきれなくなった下級生が屋上から自殺したのです。メディアの前で保身を図る大人たちに、ばしっと演説して一躍ヒーローになった大森は母校で英語教師になり、その経歴から校長も口出しできない雰囲気があるのだとか。
 水野は、この大森に目を付けられており、ことあるごとに絡まれます。
 読み進んでいくと、実際のところ下級生が飛び下りたのは先輩によるいじめからだということがわかってくるのです。
 ついでにいうと、野球の県大会時期は夏休みに入っているし、東北大会はその二週間後なので授業はないですけどね。
 読後感が爽やかで、確かに新人賞作品に選びたくなる一作でした。