くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「さいごの毛布」近藤史恵

2014-06-16 21:02:45 | 文芸・エンターテイメント
 老犬ホーム「ブランケット」で働くことになった智美。内気で人と関わることが苦手なので、なかなか就職が決まりませんでした。
 ホームのオーナーは麻耶子さん。元高校教師だそうですが、すごく派手な格好をしています。また、もう一人、碧さんという女性も働いています。
 事情があって飼い主とは暮らせない犬たち。女優の広告塔として利用されているような「クロ」、まだ若いのに預けられている「タヌ吉」、飼い主の死後に遺言によって預けられた「小麦」。
 ときには敷地内に置き去りにされる犬もいます。
 だんだんとホームでの生活に慣れていく智美ですが、碧には何やら秘密があるらしく……。

 わたしも、犬は大好き。この仕事は、犬好きにはつらいだろうと麻耶子さんがいいますが、理不尽なことを見せられることも多く、憤りを感じてしまうからでしょう。
 犬の一生が幸せであればいいのですが、そうではない場合もある。そのときに、「ブランケット」のように包み込んでくれる存在があってほしいと思います。
 また、この物語は犬にとっての暮らしだけではなく、家族のことも考えさせられます。一緒に暮らすことにわだかまりがある智美。家を出るときにも、誰も止めはしませんでした。
 彼女の心に残るのは、母親が倒れたときにいつもよりも冷静に対処したことを責める妹の言葉です。
 おそらく、慌てていて何もできなかった自分を隠そうとしての非難なのでしょう。でも、智美の努力を打ち消してしまいます。
 便利屋の灰原くんとのやりとりが楽しい。鹿肉をめぐって、奈良出身だから食べないと言い張る智美がかわいいですね。
 これまでの劣等感を、だんだんと払拭していけるだろう未来を、感じました。