くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「ルリユール」村山早紀

2014-02-16 06:24:15 | 文芸・エンターテイメント
 図書館に帯が紹介されていなければ、見過ごしてしまったでしょう。
 村山早紀「ルリユール」(ポプラ社)。児童文学作家として人気の高い村山さんですが、ああ、よくわかります。とても繊細で美しい物語でした。
 中学生の瑠璃は、叔母の初盆のために母の郷里に向かうのですが、家族はみんな都合があるというし、なんとかひとりで行くためにともらった地図が役に立ちません。絵の上手な母さんの手書きなんです。記憶って、ちょっとあてにならないところがありますよね。
 でも、なんとかおばあちゃんの営む食堂に着きます。が! おばあちゃんは階段を落っこちて入院することになったとか。
 途方に暮れる瑠璃ですが、さらに落ち込むことになるのは、翌朝、裸足で外を歩いたらしい痕跡があったこと。幼い頃の夢遊病が再発したらしいと青くなりました。
 夢で見たような場所があるのかと探しに出ると、すっかり同じ洋館を見つけます。黒猫が七匹。赤い髪の外国人女性。彼女は、クラウディアと名乗り、ここは「ルリユール黒猫工房」と呼ばれる場所だと語ります。
 チキンラーメンが大好きなクラウディア。ずっとそればかりではと心配になった瑠璃は、レモンバターのパスタを作ることに。
 亡くなった画家が最後に送ってきた「宝島」の修復や、災害で失った家族の写真を集めたスクラップブッキング、そして瑠璃自身の思いを製本など、素敵な本がそこかしこに現れます。わたしが好きなのは、「星に続く道」という章。少年時代の親友との格差を感じ、次第に疎遠になってしまった男が、かつて彼の部屋から盗んでしまった図鑑「天文と気象」。再会した彼に、返したい。なくなったページもあるし、弟が落書きもしてしまった。ただ、彼のお父さんが書いてくれた名前は残したい。
 そんなぼろぼろになった図鑑の修復を、しかも明日の朝までなんて不可能だと瑠璃は思うのですが、クラウディアはにっこり笑って、「とっておきの火蜥蜴の膠」を使うから大丈夫だというのです。
 はっきりいえば、クラウディアは魔女です。でも、使うのは現実的な技術と作業なのです。古本屋から同じ図鑑を買ってきて、分解して。糊付けだけが間に合わないから、そこで魔術を使うのでしょうね。
 「みつみねのやまいぬのすえ」については、狼の本や三峯神社の神主さんに取材したマンガを読んだのでイメージできていたんですが、伏線としてどうつながるのかはちょっとよく分からなかった。続編があるってことでしょうか。
 魔法と科学の比較とか、叔母さんの性情とか、いろいろなエッセンスがちりばめられていて、おもしろいですよ。