くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「あずかりやさん」大山淳子

2013-09-10 04:59:22 | 文芸・エンターテイメント
 前半はすごくよかったんです。大山淳子「あずかりやさん」(ポプラ社)。
 小さい頃の事故(?)がもとで失明した青年、桐島透。彼は、あることをきっかけに、一日百円でなんでも預かる店をはじめます。何を渡されても彼には見えないし、声で聞き分けてくれるので間違ったものを返されることもありません。
 点字翻訳のボランティアをしてくれる相沢さんが、タイプライターを預けにきます。彼女が語り出したのは、思ってもいなかった話でした。
 あずかりやは質屋ではありません。期間が過ぎても相手が取りに来ない場合は、そのままひきとることになります。高価なものとは限らないので、かえって処分のお金がかかることもある。ごみ同然のあずけものをしていく客もいるのです。
 わたしが好きなのは、アンティークオルゴールが預けられる「トロイメライ」です。語り手はガラスのショーケース。(ちなみに他の話では、のれん、自転車、猫です。人間の一人称は一話のみ)
 社長の執事が密かに預ける手紙。ほのぼのとした交流の中、ある事実が隠されていたことがわかります。
 「ミスター・クリスティ」もいいですよね。稀少なモデルとして、自転車屋の天井から吊り下げられていた彼が、事実のありそうな少年のものになります。笹本というこの少年は、自転車を毎日預け、古びたもう一台と交換していきます。爽快に風を切って走る様子が気持ちいいんです。
 あるときから、ポーチドエッグによく似た猫「社長」がやってきますが、うーん、わたしはこのエンディングはあんまり好みではなくて。石鹸さんは事故にあって、治るまでこられなかったという解釈でいいんでしょうか。さらによくない結末をイメージさせながら、実はそうじゃなかったという書き方は、好きじゃないんです……。
 目が見えないから、猫がメスだとは気づかない。同じように、毎日出しているのれんに「さとう」と書いてあるなど思いもよらない。そんな店主には几帳面な中にほのぼのとしたものが感じられます。
 「猫弁」の続編も一緒に借りました。まだ読んでないけど、亜子の人物紹介は、ちょっとかわいそうなんでは。