くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「白ゆき姫殺人事件」湊かなえ

2013-01-28 05:28:58 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 読み終わって、悪夢から覚めたような気分です。
 アカホシ許せねえ! と夕子ちゃんのごとく怒りがわいてきますね。
 湊かなえ「白ゆき姫殺人事件」(集英社)。ベタなワイドドラマみたいなタイトルですが、なんといいましょうか、証言の恐ろしさを感じさせられる小説です。
 事件名は「しぐれ谷OL殺人事件」。白ゆき石鹸で人気の化粧品会社の美人OLが滅多刺しの遺体で発見されます。同期の女性が、母の危篤を理由に休んでいますがそれは嘘だとわかる。同じ会社に務める後輩の友人であるフリーの記者が、その同期の女性を疑って取材をする、という構成です。表面的には。
 これ、前半が台詞を主体とした小説(雑誌連載)、後半がネット環境と週刊誌記事を羅列した読み物(Web掲載)になっているんですよ。どちらも読むことによって、特ダネを狙う余りアンフェアな記事を書くライターが浮き彫りになる。その記事を読んで衝撃をうける同僚女性は、いつの間にかネット上で本名も経歴も曝されている。よく読むと、彼の交流ページで、最初に「城田さん」と名指ししているのが、最初に出てきた友人であることがわかります。
 とすると、事件の犯人が「城田さん」であると思い込ませるような状況に引っ張っていくのが見えてくる。読者にとっては、犯人が違う人であることは自明な訳です。最初の立ち位置とつてのあることから、「城田さん」の取材を続ける記者ですが、真犯人が発覚すれば当然名誉毀損です。しかも、おもしろおかしく証言をねじ曲げる。正論を語ったり彼女をかばったりした人の言葉からは、いちばん抜き出してほしくない部分を取り上げるのです。
 自分を信じてくれる人、と思っていたのに、裏切られた思いを抱く城田さんは、故郷も友人も信じられずに姿を隠します。メディアに曝された自分は知らない人のよう。でも、他の人から見るとそうなのだろうか。
 なんだか恐ろしいですね。いや、湊さんだから恐ろしいのはわかっていたのですが。
 小説のパートとメディアのパートと、合わせて読むとわかることはありますが、なんだかすっきり解決とはいえない。典子に対しての人々の思いとか、典子本人はどうだったのかとか、もっと読みたい気がします。
 うーん、でももっと気になるのはこのあとですよね。書かれないけれどつながっていく未来。悪辣な捏造記事、夕子ちゃんの復讐、そして、城田さんがどうやって自分を取り戻していくのか。書かれない物語の明日が読みたい。
 現実も、ニュースやワイドショーの陰に隠れて見えてこない、誰かの苦しみがあるのかもしれません。