くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「鬼の跫音」道尾秀介

2013-01-20 06:26:24 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 実家にいます。娘を矯正に連れていったら、雪道のため先生が遅れているから3時過ぎるって言われました。くーっ。でも待ち時間に読んでいて、すごくおもしろかった。道尾秀介「鬼の跫音」(角川書店)。
 六編収録の短編集です。素直に読むと足をすくわれますよ。
 まず「冬の鬼」。ある女性の日記が淡々と綴られています。でも、不思議なことに日記はさかのぼって示される。

 一月八日
 遠くから鬼の跫音が聞こえる。
 私が聞きたくないことを囁いている。
 いや、違う。そんなはずはない。
 
 ここから、七日、六日、とさかのぼって元日までの八日間。「私」は「どんどや」と言われる正月の飾りを焚きあげる行事に出かけていき、願いがかなった証にだるまを火に投げ入れます。
「目ェは右も左も、ちゃんと入れたっちゃろ?」
 隣に立っていたお爺さんに言われるこの一言が、ラストで戦慄に変わる。
 「ありがたいことに、私は周囲から向けられる視線にはむしろ鈍感に育った」
 これも、意味合いが変わります。すごい。全編にわたるこの価値観の転換が非常に揺さぶられます。願いがかなったといいながら、七日で終わりにせず、冒頭の八日を加える辺りが全体に緊張感を与える。静かに近づいてくる鬼の跫音。二人のかくれんぼうは、終わりを迎えるときがくるのです。
 「春琴抄」を思い出しました。(ネタバレですかね?) Sさん執着心強そうだし。
 あ、そうそう、どの作品にも「S」という男性が主要人物として登場し、不吉な印象を与える鴉が現れます。こういう小道具のしかけ、好きですね。
 ある事実を隠して展開する物語の裏側を、読み終えたあとに考えてしまいます。