くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「鬼談百景」小野不由美

2012-07-29 21:22:58 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 夫に頼んで買ってきてもらいました。小野さんの新刊、買いでしょう。
 わたしはもともと掌編が好きで、川端の「てのひらの小説」とかショートショートとかよく読んでいたんです。この連載も、「幽」で一回読んで気になっていました。でも、どれがそのときに読んだものなのか、よくわからない。 
 ずっと読んでいると、何故だか構成が気になって。
 帯文によると、これは小野さんの「百物語」なのですよね。でも、数人で順番に語っていくという形式にはなっていません。うーん、「ゴーストハント」の冒頭で麻衣が友達とやっていたものとは違う、と申しましょうか。これは、もともと小野さんが怪談話を収集していたことと関係があるのかな。今回新作を加えて九十九話にしたのですよね。一話一話が端正な作品になっているので、特に百物語的な造りにしなくてもよかったように思います。
 そうですね、例えば物音の怪異が語られる作品があります。「影男」。夢で影のような男に暴力を振るわれた母親。しかし、夢での被害と同じ場所をケガしている。そのことを母が語り終わると、「ドンッ」という苛立ったような音が窓の外から聞こえるのです。さらには、友人に顛末を話したところ、同じように音がする。
 でも、さらにそれを聞き取った人がいるはずですよね。記録者の耳に入っているのですから。そのときのことまで、書くのは蛇足でしょう。でも、全体構成からみると不安が残るといいますか。
 「逆らう手」も同じように、じつのところ記録者のもとにくるまでにもうワンクッションあったはずでは、と思うような作品です。普通の怪談話というかショートショートならこれでいいんですが、なんだか腑に落ちない。話者のイニシャルが入るのは、伝聞性を高めるためなんでしょうかね。三人称とはまた違った不安定さを感じます。
 個人的に印象に残るのは「ひろし」「鏡」「髪あらい」といった、どちらかというと、恐怖よりも不思議さとか奇妙さとかがある話なんですよね。なかでも、「胡麻の種」がすごい。ごく短い、六行ほどの作品です。でも、わたしも蒔きたくないな。
 あとは「ぬいぐるみ」がたまらなく怖いです。