くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「GF」久保寺健彦

2011-10-05 21:24:46 | 文芸・エンターテイメント
やっぱり久保寺さんは短編がおもしろいわー。最初だけ読んで、もしやこの元アイドルの下剋上ものかと危ぶみましたが、杞憂でした。
「銀盤が溶けるほど」が好きですね。フィギュアスケートといったら「銀のロマンティック…わはは」(川原泉)くらいの知識しかないわたしですが、このペア、応援したくなりました。
中学生の原田菜摘はフィギュアスケート選手。お父さんがコーチを務めていた縁で東綾乃クラブに入会し、ペアをやりたくてずっと練習していました。中一まではシングルで出場するという約束で、ユニゾンの練習はもっぱらお父さんと。思い切ったリフトやスパイラルも、なんでも思うようにできていたのですが、パートナーを探して、いよいよ本格的に練習を始めようとした矢先のクリスマス、お父さんが事故で帰らぬ人になってしまいます。
このあたり、もう目が潤んできて、辛かった。
お父さんがまたいい人で、二人の会話もとってもいいんです。
サンタクロースにカードは届いただろうかと尋ねる娘に、
「大丈夫だよ。プレゼントもらえなかったこと、一度もないだろ」
と笑いかけて、ランニングに出て行く父。
そのちょっと前に、こんな文があります。
「記念に、と言って、お母さんは休日のたび、練習風景をビデオカメラにおさめた。だから、いまでも、お父さんと滑っているところを見ることができる」
えっ、「いまでも」? どういうこと?
そう思った矢先に、読者は父が飲酒運転のトラックに接触して命を失ったことを知らされるのです。
現在の菜摘は十五歳。そのときから一足飛びに大人にならざるを得なかったことが、サンタクロースをもはや信じてはいない現実と、一人称では「お父さん」と呼ぶのに、会話文では「パパ」と呼びかけるその言葉に集約されている。
その菜摘と出会ったパートナーが、黒川尚人。一見外国人にしか見えない、ハーフのスケート選手です。アイスダンスの国際大会に出られるくらいの実力をもつ黒川は、パートナーとのいさかいからルール違反を起こして、前のクラブにいられなくなったのでした。
ついつい余りにも気に入ったために熱が入ってしまいました。短編では今年いちばんの評価をつけたい物語です。あ、また語り始めている……。
久保寺健彦「GF ガールズファイト」(双葉社)。
タイトル通り女の子が奮闘する作品が五つ入っていますが、「オールスター大感謝祭」のミニマラソンだったり、戦後すぐの満洲だったり、テレビの生中継に出ることになったことをイジメのネタにされたりと多彩です。巻末に参考資料が載っていますが、よくこれだけ書けると思いますね。
特に「ペガサスの翼」は小柄ながら大型バイクを乗りこなす保育士の木崎翼が主人公。カッコイイ。
ある程度基礎知識がないと、オートバイのテクニックなんて書けないと思うのです。
正義感溢れる翼と、彼女を支えよえとする慎吾。痛快です。この慎吾がただのナンパ男からずんずん成長していくのもいい。
実は検診先の待ち時間に読んでいたのですが、すごいいいところで呼ばれてしまい、翼がどうなるのかはらはらしてしまいました。
待ってる間に最後まで読んでしまったので、また「銀盤」に戻ったら、再読なのに前よりも泣きたくなってしまい、苦しかった。
とにかく、がんばれ女の子!