くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「三つの名前を持つ犬」近藤史恵

2011-08-21 06:17:36 | ミステリ・サスペンス・ホラー
近藤さん、ある意味ウルトラCです!
このところノワールな感じのラストが多かったので、ちょっとびっくりしました。ラスト残りのページがこれだけなのに、ちゃんと終わるのかとドキドキしたんですが(笑)、なんとハッピーエンド。ほんとに? でも、納得できるので、まあいいでしょう。ちょっとお伽話的な面もありますしね。
「三つの名を持つ犬」(徳間書店)。ナナ、ササミ、エル。これがこの犬の名前です。ミックスで、白い毛がふわふわ。首のまわりに襟巻きをしているような感じだそうです。かわいい。犬好きの心を刺激しますね。
エルという犬との生活を描いたブログが人気となり、モデル(元レースクイーン)としての仕事が増えた都。テレビ出演という話も舞い込み、順調に暮らしている毎日でしたが、イベント会社の社長(既婚)と会って帰宅したところ、エルが死んでいたのです。
それは、都がちょっと注意すれば防げたはずの事故。このことが明らかになれば、自分の人気も仕事もなくなる。そう思った都は、エルの死をなんとか隠し通そうとします。
これまで撮りためた写真をアップし、仕事先には最近エルの調子がよくないからとキャンセルし。
でも、このままでなんとかなるはずがないと思いつめているとき、エルにそっくりな犬がいるというメールが届くのです。ホームレスがリヤカーで連れて歩いている、と。
都は、なんとかその犬を自分のものにしたいと思うようになります……。
自分の保身ために人のものを手に入れたいと思った都が、どんどん窮地に立たされていく物語です。そのなかで「償う」ことを考えていく。
中盤から視点が江口という男に変わるので、都自身の考えに直接触れることはできませんが、モデルとしてのキャリアよりも犬を重視したいという思いが、切々と感じられる。
都がどんなことを考えているのかを知らないまま、江口は彼女に引かれていきます。しかし、彼女を恐喝して金を引き出すつもりのグループに目をつけられ……。
実は、ふとしたことから都は自分の愛人を殺してしまうのです。あの日会わなければ、エルは死なずにすんだという思いもあったのかもしれません。事実を隠蔽するために、都のとった行動は死体をフリーザーに隠すこと。そして、なんとか処分しなければと考えているときに、ペット葬儀をしている人と知り合います。
前半で都がどんな窮地に立たされていくかを語り、後半では江口に視点を変えて、彼女がどんな危うい場所にいるかを語る。
江口は親の遺産を使い切り、振り込め詐欺の末端要員として糊口をしのいでいる男。ちょっとした記事から、都の連れている犬が、知り合いのホームレスの犬「ナナ」であることに気づきます。念のためにブログをさかのぼってみると、明らかに「ナナ」と前の犬が入れ代わっているのがわかる。友人と二人で都を恐喝しようとたくらみますが、うまくいきません。
しかし、ナナが江口になついていることを知った都は、彼に心を許していくようになります。彼女に引かれながら、悪事の片棒も担ぎそうになる江口。読んでいる方はハラハラです。
都の潔さと犬への愛情、そして江口の目が覚める瞬間が心地よい作品でした。