くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「山人奇談録」六条仁真

2010-07-09 22:30:16 | YA・児童書
好みです。こういう物語をもっと読みたい。ぎゅっと中身がつまった、怪異の世界。橋賢亀さんの挿絵もいい。
六条仁真「山人奇談録」(国土社)です。説話のような。民俗学の系譜に連なるような。不思議な物語です。でも、すとんと胸に落ちてくる。
主人公は小学校六年生の少女。山人だった祖父と暮らしています。祖母はもう亡くなっているようですが、そのほかの家族は不明。なかなか説明をはしょる子なので、名前もわからないし、幼なじみの「マナ」が女の子だとわかるまでわたしは五十ページかかりました。
でも、そういう説明不足を蹴散らす魅力が、この本にはあります。それを逆手に取って、あったことをそのまま受け入れる山の気風が感じられる。山という古来から受け継がれるものを、現代の少女たちが見つめている。自分たちも、「山人」の末裔であることを感じる物語でもあります。
まず、山人だったおじいさんが恰好いい。孫娘のピンチに駆け付け、闇市では妖と渡り合います。虎が出たと聞けば探索し、祭の日に雨を降らせる神社のことも知っています。
なによりも、最初と最後がリンクしていく構成が好み。この経験で、少し成長していく主人公に共感を覚えます。
わたし自身田舎生まれ田舎育ち。竹があり、杉や葛や様々な植物が密生する林が家の側にありました。山に妖がいるというイメージは、とても身近で親しいものです。
どの話も雰囲気があって、もっと浸っていたいような心地よさ。子供むけの本ですが、わたしはこういうの好きなので、ほかの物語も読みたいな。