くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「お一人様二つまで」内田春菊

2010-04-23 05:06:08 | コミック
旅行の楽しみといえば、そりゃ食べることですよね?
もともとわたしは「食」についてのコミックが大好き。旅行前に二冊読んできました。
まず、内田春菊「お一人様二つまで」(バンブーコミックス)。
内田作品は評価に悩むことが多いのでちょっとためらいはあったのですが、レシピも載っているというので買ってみました。どうもそういう付加価値に弱い。
でも、これは貧しいなかでも工夫していく物語ではないと思うのです(手元にないので正確に引用できませんが、キャッチコピーはそんな感じのがついていたと思います)。確かにジンジャー・エールや甘夏柑で作るピール、塩辣韮といった手作り感は満載ですが。でも。
恐らく元夫ユーヤの父をモデルにしたのであろうと思われる「おじいちゃん」と、実の娘でありながら彼を毛嫌いする母親との板挟みになる娘ミツバの視点で展開されるのです。
母親は和裁で身を立てながら三人の子供を育てているのですが、もともと父とはそりが合いません。自慢ばかりで人の話を聞こうとしない。セクハラ発言と心のない褒め殺しを連発。自分のことが最優先で、周囲のことにはお構いなし。策略が好き。
幼いミツバなら自分のもとにとりこめると考えたのか、母親が留守の間にたびたび家にやってきます。でも、その発言は、ミツバの心を傷つけていくのでした。
でも、この作品の恐ろしいところは、内田が意図するようには読めなくなる後半ではないでしょうか。
「俺は一匹狼だから」といいながら、群れることが好きなんだ、と母親は嘲笑します。気に入っていた店員がいなくなり、傷心のおじいちゃんはカラオケに通うのですが、なんと、そこからCDデビューの話に! 商店街の皆さんも同じノリで賛成し、即売グッズが押し寄せて……。
でも、商店街の皆さんの姿に、この母親が嫌うほどおじいちゃんは世間に疎まれている訳ではないことがわかるのです。かなり暖かい目で賛同している。それが母子には奇異にうつるのですが、そういう視点で考えると、「社長」としてもそれほど嫌われてはいないのではないか、という気になってしまう。夏祭ではかき氷を担当し(祭の中ではいちばんの人気だから)、冬祭ではおでんを作る(理由は同じ)。これはちやほやされていたい心理のなせる業だということが語られますが、なんだかんだで働くのだし、本当に嫌なんだったらコミュニティとして成立しないのでは。企業の論理というものもあるとは思いますが、主人公たちの目に映る「おじいちゃん」と社会で認められた彼とに差異がある。地域の人々にしてみれば、愛すべき人物であるのかもしれない、ということが、非常に怖いと思いました。
いや、好かれている人なのだから意見を変えろと言っているのではありませんよ。わたしもこういう発言をする人をみると嫌な感じがするし、それを受け入れる世間の人々は本当のところどう思っているのだろうと勘繰ってしまいます。それが、人気のある人ならなおさら。視野が狭いせいでこの人のことを不当におとしめて見ているのかしら、と。
結婚当初の親族の見方についてもかつて読んでいるので、内田春菊の思考の変遷は何となくわからないでもない。この「嫌な部分」というのは、先に「嫌」という気持ちがあるのです。どういうところが嫌なのか。それはこういうところああいうところ、と数えあげているうちにますます嫌になる。そして、その部分をクローズアップしてなお嫌になるのでしょう。
「食」についてのコミックのはずだったのに、なんだか違う読み方をしているのかしら。うーん……。