くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「扉守」光原百合

2009-12-24 05:31:41 | 文芸・エンターテイメント
おぉっ、光原さんの新刊! 小躍りして借りてきました。スピンの感じからいって、初読みですね。初々しい感じの連作でした。
「扉守」(文藝春秋)。サブタイトルが「瀬ノ道の旅人」である通り、海辺の町「瀬ノ道」を舞台にした都市小説です。
この町は、光原さんの故郷・尾道をモデルにした架空の町ですが、さすがにリアリティがあり情緒豊かで素敵なのです。短編連作ですから、つなぎ役として持福寺の住職・了斎さんが登場しますが、場所が共通してもヒロインは毎回違います。
伯母の営む店を手伝う大学生、母親と二人暮らしの高校生、コンサートスタッフのボランティアをしている社会人。
それぞれ悩みながらも、この町で生きることを選んだ女性たちです。
瀬ノ道を訪れる芸術家と彼女たちとのふれあいを描くのですが、この旅人たち、なかなか一筋縄ではいかないというか、特別の才能をもった方々なのです。 エナジーから写真を撮るカメラマンや、様々なもの(例えば月の光)から編み物作品を作る女性。
中でもわたしが講演を見たい! と思ったのは、ピアノと演劇です。
まずピアノですが、王子様の外見、紳士の振る舞いながら、ステージを降りると急にずぼらになってしまう零さん。でも、ピアノの腕は最高です。日本の調べを奏でる曲を聴いて、涙ぼろぼろになったというのがいいなあ。
コンサートスタッフの静音の家には、戦前からアップライトピアノがあるのですが、これが鳴らないピアノなのです。ピアノ線を供出してから、いくら張り直そうとしても切れてしまう。
そこで、マネージャー兼調律師の柊さんが張ってみることになるのですが……。
背後から曲が聞こえてきそうな、素敵な作品でした。
演劇の方は、「場」の因縁を聞き、そこで上演することで浄化させる、という一種のお祓い集団のような。ですから、ホールではなくて野外での公開になります。今回は、化け物がいるのではないかと噂される洋館。取り壊すための工事をしようとすると、瓦が落ちてくるのです。この場を救うにはどうしたらいいのか。
出てくる俳優さんたちもとっても魅力的。薙、鈴、樹。特に看板役者サクヤさんは、男なのか女なのかもわからないそうですよ……。
この瀬ノ道という場所には、様々なものが影響を受けやすい場であり、そのために不思議な出来事がたくさんあるのだそうです。
どれも繊細で優しい物語です。
恋愛模様はさらりと廃除されている感じですね。ただ、それが余り気にならない。
この町の空気、ぜひ吸ってみてほしいと思います。