くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「燃えた指」佐野洋 その2

2009-06-24 05:09:20 | ミステリ・サスペンス・ホラー
さて、わたしがいちばんおもしろく読んだのは「誘拐恩人」という話です。でも、ここで再び詩乃に疑問を感じるのです。前の週にあった誘拐事件について全く知らない。新聞を読まなかったからだ、と彼女は主張するのですが。
さらには、この人、「タケウマ」すら知らないというのです! でも「チクバの友」は知っているというの! 佐野さんっ、こんな人が仮にも高校国語教師でいいんですか? わたし、唖然としてしまいます。
「誘拐恩人」に戻します。ゲストのおじいさんがある新聞記者の話をします。中国の農村部に、学校に通いたくとも経済的理由で通えない少女がいる。小学校の校門の前に佇む少女は、同年配のこどもたちが出てくるのをじっと見つめている……。そのことについて、部員のみんなはどう思うか。
「新聞記者だったら、その少女の置かれている状況を、くわしく調べて、それを記事にして社会に訴える。それが、仕事でもあり、義務だと思いますが……」
と答えた三年生の持田さんにたいして、「模範解答」と言うゲスト。で、自分はというと、実力で少女を連れ出して都市部まで連れていくことを考えたというのです。
ふーぅ。ここでわたしが思い出したのは、ケビン・カーターが撮ったエチオピアの飢餓の写真です。痩せ細った少女が力尽きてうずくまる。背後には死肉を狙うハゲワシが……。
この写真がピュリッツァー賞を撮ったとき、「少女を助けるべきだった」という論争が起こり、結局カーターを自殺に追い込んだというものです。
ジャーナリズムが全てに優先するとは思いませんが、やり切れない。
おじいさん、その記者が少女一人を救っても、第二第三の少女はいるのではありませんか。

後半、性的な面が廃除され、昭和を生きた人々のことがクローズアップします。持田さんの卒業付近に、このシリーズの断層があるように感じました。
談話会の内容はコピー印刷されて好評のようです。たくさんのお年寄りが褒めてくれるのを見て、わたし、なんだか不安になりました。
会の話題ってそんなに感心される内容でしたかね。外部の目も意識してそれなりの編集をするのでしょうが。
はっ、わたしがこの会のことを知るのはもっぱら詩乃の目を通してのことです。とすると、会そのものではなく、詩乃に問題があるのでは?
ラスト、またもや驚きです。妊娠した詩乃は、なぜか持田さんに、自分の産休中顧問を誰にしたらよいのか相談するのです! 教え子に依存してはいかん!
「それは在校生に聞いて下さい。あたしは、大学が忙しくなるし、退会するつもりです」
と答える持田さん。
普通は卒業するとき退会しますよね。
そういえば、持田さんについても、「気がつく生徒だった」と書いてあるけど、理由は道の真ん中で立ち話をしていては通行の邪魔になるから。でも、彼女、詩乃の「上着の袖をひっぱ」ってそれを示すのです。人の袖を引っ張るのは無礼ではないかと思うのですが。
そのほかにもツッコミどころ満載。幼稚園の男の先生に肩車された女の子は、「その先生が特別に好きになり、その結果年上の男性にしか興味が持てなくなったら困る」なんて説が披露されたり。それに、表題作「燃えた指」。べつに燃えていないよね……。戦火の比喩なのでしょうか。
「この作品そのものがミステリー」ともいえる、ものすごい本でした……。