くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「楽園のつくりかた」笹生陽子

2009-04-04 05:21:57 | YA・児童書
何ていうか、ヤな奴だよね、この主人公。エリートぶっていて田舎田舎と馬鹿にするしさ。同級生が三人しかいないのに見下してるしさ。なかなか環境になじもうとしないでああだこうだぐつぐつ、煩いったらありゃしない。
でも、さすがは笹生陽子。この鼻持ちならない中学二年生が、自分の生活を「楽園」と捉えられるようになるまでの数カ月を巧みに描くのです。
「楽園のつくりかた」(角川文庫)。笹生作品を初めて文庫で読んだので、なんだかちょっと違和感がありました。わたしには単行本の方が近く感じられるようです。
主人公星野優は、海外赴任中の父親の実家に母と二人で引越します。祖父が弱ってきているので、一緒に暮らすことになったのです。母はピアノ教室を始め、優は地元の中学に転校します。東京では私立のエリート校の生徒だったのに、一転、同級生が三人しかいない分校に通うことに!
この三人は、こういうメンバーです。
①バカ丸出しのサル男=山中作太郎
②いつもマスクの根暗女=宮下まゆ
③アイドル並みの美少女(?)=一ノ瀬ヒカル
ちなみにまゆとヒカルは山村留学生だそうです。二人はそれぞれ問題を抱えていて、この分校に通うことになったのです。
わたしは、宮下まゆという少女のことが、読んだあとにいちばん印象に残りました。ネタバレになるので詳しく書けませんが、自分にも同じようなところがあるし、優の気持ちを村へと向けるだけの強い力を持っていると思ったからです。
ところで、文庫解説は北上次郎氏。森絵都の登場をきっかけに児童文学にはまる時期があり、そのとき笹生陽子の存在も大きかったとか。
で、彼は言うのです。「どかーんと感動がこみあげてくる」と。どの場面か。
「きみの通っている分校で、昔、星野博史とまぶだちだった」
すみません、ごめんなさい、わたしには違う意味で鳥肌ものだったので……。
だって、「まぶだち」……。わたし、これはもう死語だと思っていたのです。全国の「まぶだち」が使用語彙に入っているみなさん、ごめんなさい。もう十五年くらい前に弟が「マブダチ」という言葉を使っていて、なんだかものすごく古い言葉に感じたものですから。
とおるさんの登場は、優にとって少年が目指す父性が現れたことになるのではないかと思うのです。「妖怪アパート」(香月日輪・講談社YA)で主人公が頼れる大人たちと出会って、自立していくように。そう考えると、これは大人になっていく少年少女たちには必要なある種の黄金パターンなのかもしれません。
この物語にはある仕掛けがあり、それを知ってから読み直すとまたうまい具合に書かれているのがわかります。
笹生陽子、まだまだ注目ですね。