くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「夜の向こうの蛹たち」近藤史恵

2020-12-07 20:06:26 | 文芸・エンターテイメント
なかなか調子が上がらないときでも、近藤さんの本は読めるんだなー。
「夜の向こうの蛹たち」(祥伝社)。女性三人の葛藤と自立を描く作品だと思いました。
小説家の「わたし」こと織部妙。最近売り出し中の若手作家橋本さなぎを名乗る美人・速水咲子。その秘書をしているという初芝祐。
愛情と焦燥感、嫉妬。表面上は親しくしていながら、一人ひとりの欲望が違う。それでいてどこか重なり合うのです。
妙の視点で展開していくわけですから、彼女の思いがストレートに書かれているはずなのに、外見を否定するほどそれにこだわりを感じさせるのもすごい。
祐の思い切りのよさ! 中学では下級生で唯一合唱メンバーに選ばれたということも含めて、能力的に高い女性なのでしょう。
だけど、様々なコンプレックスにがんじがらめにされている。
後半怒涛の勢いでした。
シャシュリクとかスイカミルクとか、食べ物をエピソードに絡めるのが本当にうまいんだよなあ。
「合コンさしすせそ」が、しばらく頭の中を去りませんでした。

オレンジ文庫とか

2020-06-27 08:55:05 | 文芸・エンターテイメント
6月全然書いてないですね。
読んでなかった訳ではなく……現実と重ねたときの「日常」の差違に虚しさを感じてしまって。
大学が舞台なら、普通に学校に言って近くの席の人に辞書を借りたりコンパ行ったり物々交換したりご飯食べたりするんですよ。
今は緩和されてきたものの、頭のどこかにソーシャルディスタンスな観念があって引っかかりを感じるんですよね。
まあ、誰のせいでもないです。
この作品は「谷中びん詰めカフェ竹善」。
2巻まで読みました。図書館から借りられるようになって嬉しいのですが、返却したため細かいところは間違っているかも。
茨城出身の大学生紬は、実家から膨大な量の野菜が送られてくることに閉口しています。今回も玉ねぎと人参とキャベツが届きましたが、前回分を消費しきれていません。
いっそ捨ててしまうべきかと外に出たところ、派手に転んでケガをするはめに。
通りがかった外国人セドリック(だったかな……)に手当てをしてもらいますが、彼の家というのが昔は寿司屋だったのではないかと思われる「びん詰めカフェ」。棚一杯に様々なビン詰めが並んでいます。
紬の持っていた玉ねぎを「ジャム」にするという彼に、驚きますが、これがおいしい! あっという間に食べてしまいます。
その後、購入した保存食品を使ったサンドイッチがきっかけで男友達ができたり、義理の息子の家庭教師をすることになったり、とコミュ障気味の紬の生活にどんどん彩りが。
面白く読みましたし、とにかくビン詰めがおいしそうなのであります。

あとは、「これは経費で落ちません!」の6巻。短編集でした。森若さんを取り巻く人々サイドの物語。時系列で読んできたので、裏話的に読めます。

それから、「ゆきうさぎのお品書き」。
ある私立校に採用が決まった碧。大樹との仲も深まり、気難しいおばあさんにも気に入られます。
今回は彼の実家の旅館に泊まることに!
ただ、おばあさんが具合悪いときに作った小鍋、材料に「市販の白だし」が使われていたけど、老舗旅館の前女将の台所にあるものなのかな……。
都筑さんと双子の椿さんが好きだな。

「緋い川」大村友貴美

2020-05-19 20:43:11 | 文芸・エンターテイメント
 あのー、十月に灯籠流しはないと思うんですよ。
 しかも、半月後には雪が降る地域ですよ?
 別に、秋祭りのときに男の手足が川から流れてきた、で充分ではないかと。
 しかも、その遺体を捜索するために、火を焚くように指示されるほど震える季節。
 祭りの翌日に、例年川を塞き止めて燃え尽きた灯籠をさらうのは、常識的にあり得ないと思うのです。寒いと思うよ、山間部。
 紅葉、べんがら、緋い川、血、ちんぐるま(植物)と、赤のイメージを連ねたいのは分かりますが、疑問しか感じません。
 だいたい、この主人公おかしいですよ。横浜の実家の近くで医師として働きたいと恩師に依頼に行ったのに、腕のいい外科医の下で学ぶといいのではと提案されて、宮城の「触別村」の鉱山病院に赴任します。
 先輩医師殿村は歓迎してくれないし、鉱山に特有の眼病や結核、更に殺人事件。鉱山会社のお嬢さんは縁談よりも医師になるための勉強がしたいと言い、囚人やら噂話やらあれこれ絡んできます。
 仕事以上に村をふらふらしているし、殿村が死体を病院の裏手の山に埋めたと聞けば鋤を持って行って穴を掘るし、彼の荷物を探ったこともあるし、いや、こういう同僚、勘弁してほしい。(眼科の人に来てほしかったという話だし)

 全体的にいろんな要素を詰め込みすぎです。
 お嬢さんの自立問題がなくとも、成立するストーリーではある、と申しますか。
 地元が舞台と聞いて読んだのですが、うーん、地名は馴染みがあるのです。でも、気候(空気感?)は違う。
 ちなみに、鉱山の住宅はまだ残っているそうで、映画「東京タワー」で社宅に利用されたとかなんとか、です。

「七丁目まで空が象色」似鳥鶏

2020-02-09 22:33:15 | 文芸・エンターテイメント
 待ちに待ったシリーズ五冊目!
 似鳥鶏「七丁目まで空が象色」(文春文庫)。
 とにかく、壊します! 
 
 桃本くんの従弟誠一郎が働く動物園を視察に来たメンバー。誠一郎は自分が飼育員になったことを知らせていなかったので、サプライズな再会となります。
 しかし、その喜びもつかの間。中国から預かっている象のランティエが脱走し、園外に出てしまうのです。
 木は倒れ車は壊れ、誰も近寄れない象。中国語を話すことのできる誠一郎が、寄り添って歩くことができるようになります。(何となく、便利に使われている気になってしまう誠一郎ですが)
 象担当の飼育員が姿を消しており、桃本くんたちはその彼氏に立ち合ってもらってアパートを訪ねます……。

 そう、彼氏。
 こういうさりげないLGBTがたまらないですね。
 また、何故彼らがいつも事件に巻き込まれるのかも。
 最近、似鳥さんのツイッターも読んでいるわたし。次巻も楽しみにしてますー。

「タスキメシ 箱根」額賀澪

2020-02-02 19:08:29 | 文芸・エンターテイメント
「でも、大学四年間眞家と一緒にいて、努力が報われる奴はただ運がよかっただけなんだって気づいた。努力は大体、報われないんだ」
 藤宮くーん! 頼むからわたしの涙腺決壊させないで!
 何度も、胸が熱くなりました。額賀澪「タスキメシ 箱根」(小学舘)。
 前作もよかったんですが、寧ろこの続編のためにあったのではないかと思うくらい。
 箱根駅伝に関わる本は好きで読むのですが、下位の学校でそれでも走りたい、卒業したら選手としては走らないと決めている四年生たちの姿が……。
 優勝校の喝采のかげで、シード落ちや繰り上げスタートに怯え、自分の選手人生を賭けても走り抜きたいと思い詰める彼らの姿が、胸を打つのです。

 栄養管理兼コーチアシスタントとして紫峰大学駅伝部にやってきた大学院生、眞家早馬。キャプテンの千早は、何となく彼に好意を持てずにいます。
 弟、チームメイト、友達がそれぞれ優秀な駅伝ランナーである早馬は、箱根を給水係として走っています。
 予選会を今年こそ突破して、箱根に出場したい部員たち。
 その中で、千早はアキレス腱炎症のために棄権することになり……。

 続けること。後悔。努力に裏切られること。
 スポーツに限らず、自分の夢を「達成する」とはどういうことなのか。
 手元に置いて何度も読みたい。
 
 今年、紫峰大学のモデルであろう筑波大学さんが箱根に出場しましたね!
 こういうリンク、楽しいです。
 ラストの東京オリンピックは、札幌開催決まる前なので神保町に出かけてますが、そんなに気にはなりません。
 
 特に好きなのは、二区で優勝を狙う慶安大のエースと競り合った森本が悔しがる場面。飄々と取り組んできた彼の変化が、いいんだなあ。
 それから、訪ねてきた藤宮に、チーズと鰹節を渡すところも。
 あと、メンバー発表のときに早馬が作っている手巻き寿司がおいしそうなんです! 肉を焼いてるよー。サンチュ、レタス、細切りキュウリ、玉ねぎ、かいわれ菜を海苔で巻くんだって。 来週作ろう! 

「彼方のゴールド」大崎梢

2020-01-08 20:12:31 | 文芸・エンターテイメント
 またまたまたまた、泣かせられたよ、大崎さん!
 「彼方のゴールド」(文藝春秋)です。「千石社」を舞台にしたシリーズ、今回はスポーツ誌「GOLD」に異動になった目黒明日香の奮闘を描きます。
 スポーツにはほとんど関心がなかった明日香が、選手へのインタビュー、ライターやカメラマンとの交流で成長していく物語。
 ラストは東京オリンピックを間近に控えた春です。
 特に好きなのは、「キセキの一枚」です。
 カメラマンの凡野と訪れたバスケットチーム。バスケット経験者か、仙台出身か、と訊かれて不思議に思っていたら、どうもそのチームのトレーナーと関わりがある様子。
 出張先でトラブルがあった凡野が、海外から試合に間に合うように帰って来られるかどうかはらはらしている明日香に、トレーナーは友達の車に乗せてもらえるように計らってくれます。
 彼を前向きにしたきっかけが、冒頭からクリアにつながって、心震えます!

 それから、水泳をめぐる幼友達とのエピソード「水底の星」「速く、強く、熱く」、取材拒否の背景を推理する「高みを目指す」、ゴシップスクープをめぐるライターと選手の距離を考えさせる「スタート・ライン」。
 どれも、すごく好きです。
 「スクープのたまご」の日向子も登場しますよー。
 スポーツを盛り上げるのは、選手、スタッフ、メディア、ファン、様々な関わりから出発するんだな、と考えました。
 他のスポーツに関するエピソードも読みたい! 是非!

「店長がバカすぎて」早見和真

2019-12-14 20:12:21 | 文芸・エンターテイメント
 本当に読みたくて、朝読書用に持って行ったものを持ち帰りました。
 書店員谷原京子。店長のテンションについていけません。変なビジネス書に踊らされて、朝礼で話すのはもちろん、常に見当違いのことを言われています。
 勝手に作家のサイン会を企画され、言いたくないコメントを言ってしまうなど、様々なトラブルが続きます。
 社長との軋轢や、バイトだった営業への嫉妬。書店員ものが好きなので、おもしろいです。婦人雑誌のお正月号、ノルマあるってキツイ! 書店を見る目が変わります。
 でも。
 帯では「サプライズ」とか書いてあった出来事が、わたしには、さっぱり……。
 これ、どうなんですか?
 ネタバレです。
 京子をモデルにした書店員が登場する小説が出版されて、ベストセラーに。ただし、京子が別の本に投票したせいで、受賞を逸します。
 作家に交際を求められながらも、店長のことが引っかかっていて頷くことができない京子。
 うん? わたしは作家と付き合う方がいいと思うよ? 店長、一緒に生活できる人だとは思えない。
 で、アナグラムで考えると、どうも店長は例のビジネス書の筆者? 
 ……というオチなんですが。
 自分の書いた本なら、マーカーで線引く必要ないんじゃないかと?

「めぐり逢いサンドイッチ」

2019-11-02 19:43:57 | 文芸・エンターテイメント
 こんなサンドイッチの店があったら、常連になりたい!
 大阪の公園近くにあるサンドイッチの店「ピクニック・バスケット」は、店主の笹子と妹の蕗子、そしてネコのコゲのいる店。
 関西らしくタマゴサンドは卵焼き。これがいちばん人気なのです。
 そんなタマゴサンドが、公園のゴミ箱に捨てられていた! 
 そこには、小学生の頃に仲違いして再会した女性二人の、卵焼きをめぐる葛藤が。
 「ピンクの卵焼き」や「お母ちゃんのキャベツ炒め」「衣もとびっきりおいしいコロッケ」など、笹子はちょっぴりほろ苦い思い出も、サンドイッチにくるんで新しい出会いにしてくれるのです。
 パン職人の川端さんや、常連の小野寺さん、コゲの飼い主だった徹子さんなどの登場人物もいいです。(「キューブ」のメンバーを思い出しますねー)
 谷瑞恵「めぐり逢いサンドイッチ」(角川書店)。再びめぐり逢いたい一冊です。続編あるに違いない!

「弁当屋さんのおもてなし」喜多みどり

2019-05-27 22:49:13 | 文芸・エンターテイメント
 料理もののシリーズ、好きなのです。この本も、二冊目が出たあたりで一度手に取ったのですが、あまりにも同じ傾向のものを読みすぎかと思って自粛したのでした。
 わたし、好き嫌いはほとんどないのですが、ギンザケはどちらかといえば苦手。一冊目のサブタイトルが「ほかほかごはんと北海鮭かま」だったため、やめてしまったのですよ。
 今回、図書館で二冊目の「海薫るホッケフライと思い出ソース」が返却棚にあるのを見つけて借りてみました。
 シリーズ途中なのに、思った以上にすんなり読める。登場人物の人間関係がつかめない部分はありましたが、これは最初から読みたいぞ、と。
 最近、札幌のことばかり考えていたせいでしょうか。

 同僚の妊娠のため、代わりに転勤することになった小鹿千春。さらに、その同僚と結婚したのは恋人だと思っていた男。
 札幌の生活に慣れずに苦しんでいた千春が出会ったのは、路地裏にある小さなお弁当屋さん「くま弁」。ハンサムな店員のユウさん、店長の熊野、常連客の黒川と知り合います。
 ザンギ弁当を頼んだものの、脂っこいものは駄目かも……と思っていたら、ユウさんが作ってくれたのは鮭かま弁当。夢中で食べるうちに、何かが変化していきます。
 ユウさんとの仲も少しずつ 深まり、ほのぼのします。
 なんといっても、お弁当がおいしそう。カレー弁当とか八種の野菜の酢豚弁当を食べたいわあ。
 わたしも毎朝弁当は作っていますが、いつものパターンから抜けないのですよね。今日はアスパラと玉ねぎの肉巻き、スナックえんどう、ミニトマト、玉こんにゃく、かまぼこ、シラス入り卵焼きでした。
 あと二冊あるので、ゆっくり読みます。

「みかんとひよどり」近藤史恵

2019-05-19 19:08:44 | 文芸・エンターテイメント
 ジビエです。
 近藤さんは、そんなに世間で話題になっている訳ではない素材を、うまく料理してくださいますね。
 「みかんとひよどり」(角川書店)。料理と犬は、近藤さんの得意なモチーフなので、安心して読めました。
 料理人の「ぼく」(潮田亮二、三十五歳)は、愛犬のピリカ(ポインター)と出かけた山で遭難しかけたところを、猟師の大高に助けられます。大高の愛犬マタベー(北海道犬)が、見つけてくれたのです。
 ジビエを求めるオーナーの依頼もあって、猟を始めた亮二は、大高からひよどりや鴨を収めてもらう契約をします。
 最初は渋っていた大高が了承したのは、山小屋を火事で失ったから。どうも放火だったらしいのですが、猟師たちの間にも不審な事件が続き……。
 親しくなるにつれて、彼のこだわりを理解していく亮二。
 解体施設問題とか、焼け跡に佇む女とか、気になることもたくさんあります。
 わたしはジビエはほとんど経験ないのですが、熊肉ラーメンの店が近所にあったり、鹿肉をよく食べるという同僚がいたりはします。
 表題作は、みかんを満腹になるまで食べたひよどりをどう調理するかについて、余計な小細工はせずにスタンダードな食べ方をするべきではないかという結論が描かれています。
 装丁もおしゃれですよー。