● 主要な工業都市の近郊には、公営競技場が設置されています。公営競技場は、人々に娯楽機会を提供し、雇用や関連産業を育てると同時に、人々の稼得をその地域の経済と財政に還流させるという役割を果たしてきました。なかなか優れた仕組みといえます。もちろん、うまく稼働している限りでのことですが。
● 公営競技 4 事業(地方競馬、競輪、オートレース、競艇)の売上金は、バブル期の 1991 年度には 5 兆 5,000 億円超。ところが、それ以降は急坂流水。2002年度に 3 兆円を割り込んだあと、09 年度までなんとか 2 兆円台を維持していましたが、10 年度にはとうとう 2 兆円割れ。ピーク時の 3 分 1 程度の水準です。売上金などの歳入から歳出を引き、さらに繰入金・繰出金などを調整した損益は 03 年度に赤字に転落。08 年度にはわずかの黒字を回復しましたが、09~10 年度にはふたたび 100~200 億円の赤字。個別にみれば黒字を確保している公営競技場もあるとはいえ、公営競技全体としてはきわめて困難な状況です。
■ 納税者として気をつけておきたいのは、繰入金と繰出金。前者は、設備投資などのために地方自治体の一般会計から繰り入れます。後者は、公営競技の利益を一般会計に繰り出します。繰入金があっても繰出金が安定的に上回っていれば、公営競技場は「タマゴ」を産んでくれます。その繰出金から繰入金を引いた純繰出金はというと、バブル期には 3,000 億円を超えたこともありますが、2000 年代初頭には 100 億円程度に激減。03~05 年度には連続してマイナス、つまり繰入超過になりました。06~09 年度には小幅ながら繰出超過に戻したものの、10 年度には 47 億円のマイナス。なかでも競馬事業については 94 年度以降連続して繰入超過。競輪、オートレース事業でも最近になってマイナスになる年次がみられるようになりました。本来なら一般会計に貢献するのが公営競技の存立基盤のはずなのですが、租税などの持ち出しでどうにか運営されている状態です。
● 産業構造審議会車両競技分科会「競輪事業のあり方検討小委員会報告書」 (2011年6月)では、競輪事業のガバナンス不全、高コスト体質などの問題点が指摘されています。これらの課題もさることながら、それ以前に直視すべきは需要の問題。名目可処分所得が横ばい気味に推移するなかで、公営競技 4 事業の売上金は趨勢的に減少。これは供給要因だけでは説明のしようがないと思います。
● そんななか「国内の公営ギャンブルが売り上げジリ貧で赤字に悩んでいる。どこの施設もオヤジばかり。主たる顧客は年金生活者で、国が支払った年金を地方自治体が巻き上げるという笑えない現象が起きているそうだ」(平松庚三)というコラムをみかけました。この文章の本意はほかにあるのですが、公営競技場が世代間の所得移転装置に利用できるかもしれないとすれば、それはそれで興味深いことかもしれません。