「ヤバい病院・ヤバい医者」とどう戦う…?「医者で弁護士」が明かす「医療ミス裁判」の知られざる全貌(現代ビジネス) - Yahoo!ニュース
「ヤバい病院・ヤバい医者」とどう戦う…?「医者で弁護士」が明かす「医療ミス裁判」の知られざる全貌
2/27(火) 8:03配信
現代ビジネス
写真提供: 現代ビジネス
病院で起きるミスや事故は毎日のように報じられている。だが、いざそれに遭遇したとき、どう動くべきか知る人は少ない。医療関係者が口を閉ざす実態に切り込む。
【写真】肺がんステージ4から奇跡の生還…「余命1年」の父を救った「娘の一言」
----------
前編はこちら:【医療ミス訴訟は「圧倒的に患者が不利」だって…? 「医者で弁護士」が語る「ヤバい医者」から身を守る7つの方法】
----------
感情的になるのはNG
Photo by gettyimages
勘違いしがちなのが、「こんなことは許せない。一緒に戦いましょう」と二つ返事で依頼を引き受けるのが、いい弁護士とは限らないということ。無理な依頼でもとにかく引き受けて、着手金をせしめようとする弁護士は少なくない。カネ持ちの被害者ばかり相手にし、勝ち目のない訴訟をそそのかす者もいるというから、たちが悪い。
「もちろん、本当に患者さんのためを思って引き受ける弁護士もいます。しかし、そもそも医療過誤訴訟は労力が大きく、普通の事件の10件分に相当するといわれるほど。一人の弁護士が扱える件数は限られているため、経験不足、知識不足の弁護士に当たりがちなのが実情です」(富永氏)
熱意と専門知識を兼ね備えた弁護士に出会いたいものだが、ダブルライセンスを持っていても、勝率の低い患者側に立つことに積極的な弁護士は少ない。「私は医者でもあるから、同じ医者の敵にはなれない」と、むしろ医者の側についてしまう弁護士さえいる。こうした事情から、富永氏は「医療ミスを専門とする弁護士で、私が安心して推薦できる方は全国でも数人しかいません」と嘆く。
それでも、なんとか信頼できる弁護士を見つける術はあるのだろうか。
「まずは、ネットで検索したり、めぼしい弁護士がいれば電話で聞くなどして、その弁護士が自分の受けた被害と同じようなケースを取り扱った経験があるかどうかを調べてみてください。
その際は、遠方に事務所を構える弁護士でもかまいません。近年では打ち合わせや裁判の期日もリモートでこなすことがほとんどなので、距離が遠いことは問題ない。それよりも経験と知識があること、さらに人として信頼できるかどうかを優先して決めるほうがいいでしょう」(富永氏)
2/27(火) 8:03配信
現代ビジネス
写真提供: 現代ビジネス
病院で起きるミスや事故は毎日のように報じられている。だが、いざそれに遭遇したとき、どう動くべきか知る人は少ない。医療関係者が口を閉ざす実態に切り込む。
【写真】肺がんステージ4から奇跡の生還…「余命1年」の父を救った「娘の一言」
----------
前編はこちら:【医療ミス訴訟は「圧倒的に患者が不利」だって…? 「医者で弁護士」が語る「ヤバい医者」から身を守る7つの方法】
----------
感情的になるのはNG
Photo by gettyimages
勘違いしがちなのが、「こんなことは許せない。一緒に戦いましょう」と二つ返事で依頼を引き受けるのが、いい弁護士とは限らないということ。無理な依頼でもとにかく引き受けて、着手金をせしめようとする弁護士は少なくない。カネ持ちの被害者ばかり相手にし、勝ち目のない訴訟をそそのかす者もいるというから、たちが悪い。
「もちろん、本当に患者さんのためを思って引き受ける弁護士もいます。しかし、そもそも医療過誤訴訟は労力が大きく、普通の事件の10件分に相当するといわれるほど。一人の弁護士が扱える件数は限られているため、経験不足、知識不足の弁護士に当たりがちなのが実情です」(富永氏)
熱意と専門知識を兼ね備えた弁護士に出会いたいものだが、ダブルライセンスを持っていても、勝率の低い患者側に立つことに積極的な弁護士は少ない。「私は医者でもあるから、同じ医者の敵にはなれない」と、むしろ医者の側についてしまう弁護士さえいる。こうした事情から、富永氏は「医療ミスを専門とする弁護士で、私が安心して推薦できる方は全国でも数人しかいません」と嘆く。
それでも、なんとか信頼できる弁護士を見つける術はあるのだろうか。
「まずは、ネットで検索したり、めぼしい弁護士がいれば電話で聞くなどして、その弁護士が自分の受けた被害と同じようなケースを取り扱った経験があるかどうかを調べてみてください。
その際は、遠方に事務所を構える弁護士でもかまいません。近年では打ち合わせや裁判の期日もリモートでこなすことがほとんどなので、距離が遠いことは問題ない。それよりも経験と知識があること、さらに人として信頼できるかどうかを優先して決めるほうがいいでしょう」(富永氏)
「弁護士同席」がダメなワケ
では、弁護士に相談したあと、医療ミスの訴訟・示談交渉はどのようなプロセスで進むのか(39ページの図も参照)。
まず押さえなければならないのは、最大の証拠となるカルテだ。じつは、カルテの開示手続きは患者本人やその家族でもできるが、気をつけるべき点がある。
「カルテのコピーは、病気によっては段ボール数箱分にもなることがあります。料金は1枚あたり10~50円がふつうですが、規定がなく病院側の言い値なので、中には1枚数百円程度を請求してくる病院もあります」(前出・平井氏)
また、病院側がトラブルを察知して「できれば会ってご説明したい」と申し出てくることもあるが、そのとき不安だからといって弁護士を同席させてはいけない。
「弁護士がいると病院側が警戒し、不利な情報を出さないようにしたり、話す内容を変えたりすることがあるので、患者さんやご家族だけで話し合ったほうがいいでしょう。
そのとき重要なのは、『なぜ』『どうして』とミスの理由を問うのではなく、淡々と事実関係を確認し、録音することです。感情的になってしまうのは仕方ありませんが、ここでなるべく多くの情報を病院側から引き出すことができれば、あとあと役に立ちます」(平井氏)
ミスや事故の経緯が徐々に明らかになってきても、まだ安心はできない。次なるハードルが「協力医」を探すことだ。医学的な観点からミスを立証し、病院や医者の落ち度を指摘してくれる別の医者を探す必要があるのだが、彼らはいわば「医者の敵」になるわけだから、そう簡単には引き受けてもらえない。
「カルテを読んでもらうだけならまだしも、裁判で証言までしてくれる協力医となると、見つけるのに苦労するというのが正直なところです。費用についても、カルテに目を通して意見をもらうまでで最低5万円程度、裁判に協力してもらうとなると数十万円の謝礼を用意する必要があります」(平井氏)
しかも、大学病院などでの医療ミスになると、学閥のつながりや関係維持を理由に協力を渋られることもある。平井氏は、「関東の病院なら関西、関西なら九州など、まったく違う地域で働く医者に頼んだほうがいい」とアドバイスする。
では、弁護士に相談したあと、医療ミスの訴訟・示談交渉はどのようなプロセスで進むのか(39ページの図も参照)。
まず押さえなければならないのは、最大の証拠となるカルテだ。じつは、カルテの開示手続きは患者本人やその家族でもできるが、気をつけるべき点がある。
「カルテのコピーは、病気によっては段ボール数箱分にもなることがあります。料金は1枚あたり10~50円がふつうですが、規定がなく病院側の言い値なので、中には1枚数百円程度を請求してくる病院もあります」(前出・平井氏)
また、病院側がトラブルを察知して「できれば会ってご説明したい」と申し出てくることもあるが、そのとき不安だからといって弁護士を同席させてはいけない。
「弁護士がいると病院側が警戒し、不利な情報を出さないようにしたり、話す内容を変えたりすることがあるので、患者さんやご家族だけで話し合ったほうがいいでしょう。
そのとき重要なのは、『なぜ』『どうして』とミスの理由を問うのではなく、淡々と事実関係を確認し、録音することです。感情的になってしまうのは仕方ありませんが、ここでなるべく多くの情報を病院側から引き出すことができれば、あとあと役に立ちます」(平井氏)
ミスや事故の経緯が徐々に明らかになってきても、まだ安心はできない。次なるハードルが「協力医」を探すことだ。医学的な観点からミスを立証し、病院や医者の落ち度を指摘してくれる別の医者を探す必要があるのだが、彼らはいわば「医者の敵」になるわけだから、そう簡単には引き受けてもらえない。
「カルテを読んでもらうだけならまだしも、裁判で証言までしてくれる協力医となると、見つけるのに苦労するというのが正直なところです。費用についても、カルテに目を通して意見をもらうまでで最低5万円程度、裁判に協力してもらうとなると数十万円の謝礼を用意する必要があります」(平井氏)
しかも、大学病院などでの医療ミスになると、学閥のつながりや関係維持を理由に協力を渋られることもある。平井氏は、「関東の病院なら関西、関西なら九州など、まったく違う地域で働く医者に頼んだほうがいい」とアドバイスする。
かかるカネ、もらえるカネ
Photo by gettyimages
気になる賠償金・慰謝料の金額は、交通事故でケガを負ったり死亡した場合と同じ基準で、患者や遺族の事情をふまえて算出される。働いている成人男性が死亡した場合で約3000万円が目安となるが、「ミスが大きいとか、亡くなったから高額になるわけではありません。障害を負って介護が必要になった場合や、患者が若いと、介護費用や逸失利益が加算されるため、1億円を超えるケースもある」(富永氏)という。
医療訴訟には、最低でも100万~200万円の弁護士費用がかかる。そこに前述したカルテ開示の費用、協力医への謝礼などが上乗せされるから、経済的負担は大きい。加えて病院側との交渉には時間がかかるため、精神的な負担も長く続く。
「もし病院側が即座に非を認めるのであれば、数ヵ月で交渉が終わることもありますが、きわめて稀です。証拠などの準備・検討をして病院側と交渉の席につくまでに少なくとも半年、訴訟に至るまで1年、そこから和解や判決に至るまでには、最低2~3年かかると考えてください」(平井氏)
それでも、前出の宮脇氏は、医療ミスに遭ってしまった患者が声を上げることは大切だと語る。
「医療ミスで失われるのは、患者本人の健康や命だけではありません。大黒柱や精神的な支えを失い、家族がバラバラになってしまうこともある。そんな中で裁判をするのは、並大抵のことではありません。
ですが、私たち遺族は賠償金を得るよりも、心からの謝罪を聞きたいからこそ戦っている。医療ミスを一件でも減らすためにも、交渉や裁判を通じて、病院や医療界に再発防止を促すことが必要だと思います」
いつ自分や家族が直面するかもしれない医療ミス。まずは知ることから、対策を始めよう。
「週刊現代」2024年2月24日・3月2日合併号より
週刊現代(講談社)
Photo by gettyimages
気になる賠償金・慰謝料の金額は、交通事故でケガを負ったり死亡した場合と同じ基準で、患者や遺族の事情をふまえて算出される。働いている成人男性が死亡した場合で約3000万円が目安となるが、「ミスが大きいとか、亡くなったから高額になるわけではありません。障害を負って介護が必要になった場合や、患者が若いと、介護費用や逸失利益が加算されるため、1億円を超えるケースもある」(富永氏)という。
医療訴訟には、最低でも100万~200万円の弁護士費用がかかる。そこに前述したカルテ開示の費用、協力医への謝礼などが上乗せされるから、経済的負担は大きい。加えて病院側との交渉には時間がかかるため、精神的な負担も長く続く。
「もし病院側が即座に非を認めるのであれば、数ヵ月で交渉が終わることもありますが、きわめて稀です。証拠などの準備・検討をして病院側と交渉の席につくまでに少なくとも半年、訴訟に至るまで1年、そこから和解や判決に至るまでには、最低2~3年かかると考えてください」(平井氏)
それでも、前出の宮脇氏は、医療ミスに遭ってしまった患者が声を上げることは大切だと語る。
「医療ミスで失われるのは、患者本人の健康や命だけではありません。大黒柱や精神的な支えを失い、家族がバラバラになってしまうこともある。そんな中で裁判をするのは、並大抵のことではありません。
ですが、私たち遺族は賠償金を得るよりも、心からの謝罪を聞きたいからこそ戦っている。医療ミスを一件でも減らすためにも、交渉や裁判を通じて、病院や医療界に再発防止を促すことが必要だと思います」
いつ自分や家族が直面するかもしれない医療ミス。まずは知ることから、対策を始めよう。
「週刊現代」2024年2月24日・3月2日合併号より
週刊現代(講談社)