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精神疾患と診断された人が「薬漬け」の異常な現実、向精神薬の強制投与は過度に鎮静化させる「拘束」

2024年01月11日 16時03分12秒 | 医療のこと
精神疾患と診断された人が「薬漬け」の異常な現実、向精神薬の強制投与は過度に鎮静化させる「拘束」

本人の意思を無視した長期強制入院、病院への強制移送、身体拘束、薬漬け……、


3・22・2022

日本の精神科病院を取り巻く現状は、世界標準からかけ離れた異常な点ばかりだ。そんな日本の精神医療の抱える現実をレポートした、本連載「精神医療を問う」全15回に大幅加筆した書籍、

『ルポ・収容所列島 ニッポンの精神医療を問う』が3月11日に当社から刊行された。 連載内では盛り込めなかった、当事者たちの切実な声から明らかになった日本の精神医療が抱える深い闇の実態を、さらにお伝えしたい。


■患者に薬を飲まない自由はないのか 

 精神科病院では、うつ病薬や睡眠薬など脳の中枢神経に作用する向精神薬が処方される。その副作用や依存で苦しむ人は多いが、患者自身へインフォームドコンセント(医療行為に関する十分な説明と患者の同意)はおろそかにされている。

  精神科病院で手足や胴体を縛る身体拘束とほぼセットで患者に投与されるのが、向精神薬だ。病院が身体拘束を行う場合は家族の同意を得る必要がある。しかし、向精神薬はたとえ大量に投与する場合でも、本人や家族に同意を求めることすらない。「病院の秩序のため」「家族のため」と言われ、患者は薬を半ば強制的に投与される。


 患者を過度に鎮静化して無抵抗にするという点で、向精神薬は身体拘束と同じだ。その意味で、向精神薬の投与は「化学的拘束」とも言われる。入院中、患者は看護師の前で薬を飲み、しっかり飲んでいるか確認される。口を開いて飲み込んでいるかまで見られることもある。 

 精神障害のある当事者と支援者で作る「YPS横浜ピアスタッフ協会」に所属する堀合研二郎さんは、「医療者側が薬物療法以外の選択肢を持っていないため、それに頼りがちになっている」と訴える。堀合さんは、20代のとき統合失調症と診断され、向精神薬の副作用に苦しんだ経験がある。


 「最低限の量と最低限の副作用で日常生活を送るのがいちばんいいが、基本的にその薬が効く場合は最大量まで増量される。そして飲まなくなったら、同じ状態になると脅される」  

堀合さんは、症状が安定していた時期にもかかわらず、医師に薬を飲んでいないという疑いをかけられ、再び入院をさせられた経験がある。「処方された薬を飲むしかないため、患者側には自由はない」と堀合さん。 

 「患者は、何かしらの心理的な要因や環境的な問題があって苦しんでいる。しかし、医師はそちらへの働きかけをしないまま、薬によって解決しようとする。副作用が出るとそれをやめて別の薬は出してくれるが、その薬にも副作用がある。医師は病気の再発を防ぐことを優先して減薬しようとしない。もっと個々人の副作用や当事者の生活に目を向けてほしい」(堀合さん)



アスペルガー症候群と診断され、10代のときから向精神薬を飲み続けている21歳の加藤詩織さん(仮名)は、薬の量を減らせないことが悩みだ。年々薬の量は増えているが、薬を飲んでも眠れない日が続き、昼頃までだるさが残る。これまで摂食障害と自傷行為で、精神科病院に3度入院した。その後、薬の量を減らしたくても減らせないという。  

飲むのを勝手にやめたときもあったが、主治医に『自分で服薬の管理ができないなら、入院して薬を飲む習慣をつけることになる』と言われた。入院はもう嫌だからまた飲むしかありません」(加藤さん)

■医師の処方にチェック機能が働かない  精神科の薬物投与は1人の医師によるもので、そこにチェック機能が働きにくい。本来ならば、薬剤師が医師の処方に対して疑問点や不明点を確認する「疑義照会」がチェック機能になるはずだ。しかし、「疑義照会は形骸化している」と複数の医師や薬剤師が口をそろえる。 

 医師がピラミッドの頂点にいる医療界では、その力関係から薬剤師が医師の処方に口を出すことははばかられるからだ。医師同士であっても、互いの処方をチェックすることはない。

 「精神科の処方は医師1人ひとりによる名人芸になりやすい。薬物治療のガイドラインすら守らない医師もいる。しかも、医療従事者と患者には情報の非対称性がある。患者は症状に苦しんでいるため、薬について調べる余力がない」(前出の堀合さん) 

 堀合さんが参加する「抗精神病薬と社会」研究会では、薬を強制しない精神医療のアプローチについて議論している。同研究会は、カナダ・ケベック州で普及している精神科治療薬を自律的に服薬するためのアプローチ「GAM」(ギャム:Gestion autonome de la medication)を研究し、それを応用した方法を当事者や研究者、医師や薬剤師が中心になって日本への導入の可能性を検討している。

■服薬の経験がトラウマに 

 同研究会の主催者の1人で、精神医学の哲学を研究する石原孝二・東京大学大学病院総合文化研究科教授は、精神医療では患者へのインフォームドコンセントが軽んじられていると指摘する。 

 「医療保護入院(本人の同意なしに強制入院させる制度)は入院の強制であって、治療の強制ではないはずだ。しかし、なぜか治療までもが強制になっている」(石原教授) 

 研究会のメンバーで、18歳のときに統合失調症と診断されたことがある大矢早智子さん(仮名)は、10年以上経ってから統合失調症ではなかったのではないかと告げられた。女性は、「当時、統合失調症と言われたことや、薬を何のために飲むのか知らされないまま飲んでいたことが、今のトラウマになっている」と話す。

 「飲みたくないと言うと、『病識がない』(自分の病気のことがわかっていない)とされてしまうことが多い。飲まなければ、病状が悪化したと見なされてしまうこともある」(大矢さん) 

 こうした医療側の論理によって、精神疾患と診断された人は薬を「飲みたくない」「減らしたい」という意思すら否定されていく。病院への収容か、処方された薬を飲むか。そこには本人の意思が置き去りにされたままだ。





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