板の庵(いたのいおり)

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エッセイ:「暴力的指導なぜ繰り返される(17)」2018.09

2018-09-11 07:49:55 | エッセイ
エッセイ:「暴力的指導なぜ繰り返される(17)」2018.09


テニス世界四大タイトルの一つ全米オープンで大坂なおみ選手(20)が優勝するという本当に奇跡みたいなことが起こった。決勝相手のセリーナ・ウイルムアムズ選手(36、米国)は女子テニス界のレジェンドと言われる強者。大坂にとってはいわゆるアウエイでの戦いで観衆はほとんどセリーナへの応援である。
優勝者インタビューでは観客に向かって「セリーナではなく私が勝って、ごめんなさい」とブーイングに対して最高のコメントを言ってのけた。

サーシャ・ベーシン新コーチ(ドイツ系米国)に指導され急激に強くなったという。選手時代のコーチ自身は119位が最高だったが、セリーナを含めて3人の世界ランク一位を育てたのである。その指導方針は選手の目線に立ち、言ってみれば「ほめ殺し」で自信を持たせることだそうだ。
フィジカルな強さに比し、メンタル面でムラのある弱点を優しくカバーしたのである。スピーチではたどたどしい日本語で何度も「がまん」という言葉が出てきた。
そして日本中が大坂なおみ選手の強さだけでなく、そのたち振る舞いを「かわいい」と言い始めた。

これに引き換え日本のスポーツ界で次々に起こる在り(あり)様(よう)はなんたることだろうか。
一部のテレビ局で報道された女子体操の速見コーチが宮川選手に練習中に暴力を振るうシーン(2015年)である。「18歳の選手がウソを言うとは思えない」と記者会見で言い切った日本体操協会の具志堅副会長もあまりのすごさに絶句したというほど。
私を含めて視聴者も同じシーンを二度とは見る気にはなれないだろう。テレビ局も再放映をためらうと思うほどショッキングな暴力シーンであった。速見コーチ本人もビデオを見てこれは指導ではなく暴力であることをはっきりと認めているのだ。

幼い時からあんな暴力を受けていたとすればとんでもないことである。筆舌に尽くし難いほどのコーチからの暴力に耐えてきた宮川選手は、それでも速見コーチの減刑を訴え二人三脚を継続したいと。返す刀で「塚原夫妻がパワハラを行った」と訴えているのであるが、どうなるやら。

今回の速見コーチの登録抹消処分を受けた問題が発覚してから、マスコミの論調からも私を含め多くの視聴者は宮川選手の主張に肩を持ってきたように感じる。
速見コーチは記者会見で現役時代に「暴力を交えた指導を受けていた」とし、暴力は指導の一環という認識を持っていたと語った。
 「世代間連鎖」とは、親から学んだことを、無意識のうちに自分も同様に行うようになること。家族問題で使われることの多い心理学用語だが、指導者と選手という密接な関係ならば、やはり世代間連鎖も起こりやすい。
暴力が容認されるような危険な場面と強い信頼関係があったからこそ、パワハラとも体罰とも捉えられていなかったのだ

全国大学体育連合が調査を実施したところ、体罰を振るわれた経験のある学生のうち6割が「体罰や暴力は必要」と考え、体罰経験のある学生の方が「将来はスポーツ指導者になりたい」と回答しているという結果が出ているのだ。

速見コーチ自身も、自身が経験した暴力を交えた指導に対して、「教えてもらえたという感謝の気持ちがあった」と語った。そこにはポジティブな感情があったことがわかる。そのため、自らが受けてきた指導に対する疑問も、自らの指導法に対しての疑問も持つことはなかったのだ。
また、世代間で連鎖する間に、社会環境も世間の認識も変化している。当時はそんなものかと思われていたことが、今は社会的に容認されないこともある。だが、どういう理由・時代であれ暴力は国内的にはもとより国際的にも許されない。そこに気付くことが、世代間連鎖を断ち切る最初のステップであると言われる。
 
速見コーチの復帰と宮川選手の関係は、真じかに迫る国際大会や東京オリンッピックを見据えて心情的には認めてあげたい。しかしこの暴力問題を例外として許すことになると、日本のスポーツ界の由々しき問題に対する警鐘を先送りにすることになり到底許されないのだ。

“悪夢から目を覚まして欲しい” 宮川選手にはまだ若いのだから新しい指導者と共に頑張ってほしいとしか言いようがないのである。

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