答えは現場にあり!技術屋日記

還暦過ぎの土木技術者のオジさんが、悪戦苦闘七転八倒で生きる日々の泣き笑いをつづるブログ。

柚子の大馬鹿十八年

2018年12月11日 | ちょっと考えたこと

女房殿が世話をしている花たちの住処(すみか)の隅っこに柚子の幼樹がある。実生(みしょう)の木、つまり種から芽が出てそこにありついた。

ご存知ない方も多いと思うが、柚子の成長は驚くほど遅い。

俗に、「桃栗三年柿八年」という。

桃と栗は3年、柿は8年、果樹を植えたらその実がなるまでに、相当な歳月を待たねばならないことから、何ごとも成し遂げるには相応の年月が必要だというたとえだ。さらにそのあと、「枇杷(びわ)は九年でなりかねる」とか「梅は酸(す)いとて十三年」とか、よりいっそう成長の遅い種をたとえとしてつづける場合もある。

柚子をたとえに使うバージョンがこれだ。

「柚子の大馬鹿十八年」

他の果樹と比べても、その成長の遅さは出色だ。

 

そうそう。ついさきほどから読み始めた岡潔『春宵十話』の冒頭、『人の情緒と教育』という話にこんな言葉があった。

「すべて成熟は早すぎるよりも遅すぎる方がよい。これが教育の根本原則だと思う。」

その前段には、「人は動物だが、単なる動物ではなく、渋柿の台木に甘柿の芽をついだようなもの、つまり動物性の台木に人間性の芽をつぎ木したもの」であり、「芽なら何でもよい、早く育ちさえすればよいと思って」「ただ育てるだけなら渋柿の芽になってしまって甘柿の発育はおさえられてしまう」「渋柿の芽は甘柿の芽よりずっと早く成育するから、成熟が早くなるということに対してもっと警戒せねばいけない」ということが書かれてある。つまり、早く伸ばそう育てようと急ぐあまり、動物性の部分ばかりが伸びて、肝腎要の「人間性」がおさえられてしまっている現実に対して、「すべて成熟は早すぎるよりも遅すぎる方がよい」と説いているわけだ。

では、その人間性とは何か。岡潔はそれを「思いやりの感情にある」と書く。そして、「動物性の芽を早く伸ばしたせい」により「いまの教育は思いやりの心を育てるのを抜いているのではあるまいか」とも書いている。

念のためことわっておくが、彼が言う「いまの教育」とは、「いま」とはいえど、それが書かれたのは1963年、わたしが小学校へあがる前であり、彼が批判するところの「いまの教育」の産物としての成れの果てが、2018年の「今」、当時の岡潔とほぼ同じ齢の爺さんとしてここにいる。

柚子に話を戻そう。

この柚子の幼樹が芽を出したのを発見したのは、どのくらい前だったろう。たしかには覚えてないが、「あら、こんなところに柚子が」と見つけてから2年ぐらいは経っているはずだ。冒頭紹介したことわざを持ち出すと「柚子の大馬鹿十八年」(わたしの経験から考えるとそれは、もうちょっと長いような気がする)。となると、この木が実をつけるのを、ひょっとしたらわたしは見ることができないのかもしれない。いや、その蓋然性はそう低くはない。

それでも育てるのか?

ふとそんな考えが頭をよぎる。

なんてこったい。

まったく「いまの教育」にどっぷりとつかって育ってきた爺さんは、考え方が即物的だと、われながら泣けてくる。

自分が存在しない未来には責任が持てないのか。

いや、自分が存在しない未来だからこそ、その未来のために責任を負った言動をとるのが「正しい爺さん」というものだろう。

それはなにか?

「育てる」ことだ。

 

・・・・・・・・・・・・

やはり心を育てる時期はあるに違いない。それは植物でも茎、枝、葉が一様に平均して育つのではないのと同じことである。ある時期は茎が、ある時期は葉が主に伸びるということぐらいは、戦時中みんなカボチャを作ったから知っているはずだが、人間というカボチャも同じだとは気づかず、時間を細かく切ってのぞいて、いいとか悪いとか、この子は能力があるとかないとかいっている。(Kindleの位置No.76あたり)

・・・・・・・・・・・・

 

柚子は、しかと目に見えるような成長をすることなしに、20年近い歳月をかけてゆっくりと、実をつける成樹となっていく。

カボチャを柚子に置き換えてみた。

「人間という柚子も同じだとは気づかず、時間を細かく切ってのぞいて、いいとか悪いとか、この子は能力があるとかないとかいっている」



以上、女房殿が世話をしている花たちの住処(すみか)の隅っこでひっそりと育つ柚子の幼樹を見て、「すべて成熟は早すぎるよりも遅すぎる方がよい。これが教育の根本原則だと思う。」という岡潔の言葉を反芻した朝のことである。



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