答えは現場にあり!技術屋日記

「三方良しの公共事業」をモットーに、辺境の高知のそのまた辺境から、土木技術者のオジさんが泣き笑いの日々を届けます。

困った

2016年04月05日 | ちょっと考えたこと

 

ご存知、司馬遼太郎の『竜馬がゆく』は、記憶にあるだけでも3回通読した。

中学、高校、大学、社会人・・・

あれ?

4回は読んでいるぞ。

ま、そんなことはどっちでもいい。あれだけの量の本を何回も繰り返し読んだことはその他にないし、たぶんこれからもない。

高校を卒業したばかりの春、青雲の志を抱いて宇高連絡船に乗ったわたしのバッグには、『竜馬がゆく』全5巻がしっかりと入っていた。単行本を5つも入れると、さほど大きくもなかったろうバッグのなかに他に入るものはたかが知れている(40年も経った今となれば可笑しな話です)。

それほどに大好きな本だった。

(わたしの)希望がつまっていた、と形容してもいい。

そんな『竜馬がゆく』の、大好きなシーンのひとつを、何というか、突然思い出してしまった。

引用してみる。

 

 

 竜馬は長崎にもどってから思案しぬいたがうまい工夫がない。

 十日目の朝、陸奥陽之助が訪ねてきたのをさいわい、

「いっそ、社中を解散するか」とまでいった。

 陸奥はおどろいた。

「正気ですか」

 と念を押したのは、亀山社中を解散すれば、竜馬の新日本構想は消滅し去るといってよく、もはや地上に坂本竜馬は無いにひとしい。

「水夫・火夫の賃金がはらえぬ。このさき、払えるめども立たぬ」

「さすがの坂本さんも万策つきたとみえますな。私は天下に、こまらぬ男というものは長州の高杉晋作とわれわれの坂本竜馬だけだと思っていたが、これはちがったな」

「なんだ、そのこまらぬ男というのは」

「いや、長州できいた話ですよ」

 と、陸奥は、暗に竜馬をはげますつもりらしく、こんなことをいった。

 高杉は長州の天才児である。天馬空を往くような奇想のもちぬしで、しかもことごとく図にあたっている。

「まるで雲に乗った孫悟空ですよ。雲から落ちて絶体絶命に立ちいたっても、ふたたび雲を呼んでまた三千世界を駆けめぐる。二千年来の英雄児ですな」

 さらに陸奥はいった。この男は、のちに曠世の名外務大臣といわれた男だけに、竜馬の気持ちをたくみに刺激しつつ、話を自分の思う壺にもってゆこうとする。

「長州人にいわせると、高杉の秘術のタネは一つだそうですよ。それは、困った、ということを金輪際いわない、ということだそうです。かれの自戒だそうです」

「おれはよくいうよ」

「高杉はいわぬそうですな」

 高杉晋作は平素、同藩の志士に、「おれは父からそう教えられた、男子は決して困った、という言葉を吐くなと」と語っていた。どんな事でも周到に考えぬいたすえに行動し、困らぬようにしておく。それでなおかつ窮地におちた場合でも、

「こまった」

 とはいわない。困った、といったとたん、人間は智恵も分別も出ないようになってしまう。

「そうなれば窮地が死地になる。活路が見出されなくなる」

 というのが、高杉の考えだった。「人間、窮地におち入るのはよい。意外な方角に活路が見いだせるからだ。しかし死地におち入ればそれでおしまいだ。だからおれは困ったの一言は吐かない」と、高杉は、陸奥にもそう語っていたという。

「高杉は、長州藩の上士だぜ」

 竜馬は、さすがに競争心をあおられたらしい。高杉は家中の名門の出身で、藩公父子の信望もあつく、つねに藩を動かしうる立場にある。背景が大きい。

「が、おれは天下の素浪人さ。いくら高杉が鬼才でも、一人で長州藩全員を食わせてゆかなきゃならなくなると、困った、というぜ」

(『竜馬がゆく~回天編』P.43~44)

 

 

竜馬マニアだったわたしはこれを、

「困った」竜馬に対して陸奥陽之助が

「高杉は困ったと言わない」というと

「おれはよくいうよ」 と返した、

という、いかにも竜馬という人間をよく表したエピソードとして覚えていた。

この歳になってあらためて読んでみると、竜馬(らしさ)は当然よく、それを表現する司馬遼太郎の筆致も大好きなのだが、それと同等、いやそれ以上に「高杉の考え」というのが素晴らしいなと思えてくる。「人間、窮地におち入るのはよい。意外な方角に活路が見いだせるからだ」という部分である。

あたらしい発見だ。

やはり、年齢や立場でものの見方や感じ方は変わるものらしい。

「困った」と素直にゆうもよし。「困ったといったとたん人間は智恵も分別も出なくなる」と踏んばり、物ごとを打開していくのもまたよし。

だが今のわたしには、「高杉晋作の言葉」のほうがしっくりくる。


今年(こんねん)花落ちて顔色改まり・・・

これでいいのだ。


 

 

竜馬がゆく〈5 回天篇〉
司馬遼太郎
文藝春秋

 

竜馬がゆく〈4 怒涛篇〉
司馬遼太郎
文藝春秋

 

竜馬がゆく〈3 狂瀾篇〉
司馬遼太郎
文藝春秋

 

竜馬がゆく〈2 風雲篇〉
司馬遼太郎
文藝春秋

 

竜馬がゆく〈1 立志篇〉
司馬遼太郎
文藝春秋

 

 

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