散日拾遺

日々の雑感、読書記録、自由連想その他いろいろ。
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a Day in the Life

2013-12-07 00:07:49 | 日記
2013年12月6日(金)

> こんな大勢の人が見てるブログに私がデモに行ってるなんて公表したら公安に目つけられちゃうじゃないですか! なんて言う日がひょっとしたら来るのでしょうか?
とりあえず現場に行ってみます。
勝沼

 ご、ごめんなさい。ところで「そんな日がひょっとしたら来るのでしょうか?」は、「大勢の人が当ブログを見る」にかかるんですか?それとも「公安が個人ブログを監視する」状況のこと?後者は既に実行されているんでしょう。問題は当人がキケン人物と見なされるかどうかですね。
 勝沼さんが晴れやかな行動人であることを、仲間たちはみな知っています。加えて当ブログは群小泡沫のそのまた端くれぐらいですから、まずもって心配ないことと思うのですが、いかがでしょう?

> 石丸先生の入試面接を受けたことがあるものです。石丸先生の入試面接を「受けた」側からの感想では,とても良い印象だったことを憶えています。
ぐうたら三昧

 どちら様かは存じませんが、ありがとうございます・・・と言いたいところですが、ぐうたら三昧さんのお顔はほぼ思い浮かぶんだな。私、ぐうたらを入学させちゃったんですね、落ちた方々に申し訳が立ちません。キミ、しっかり精進なさい!

***

 金曜日はいつもの診療、僕のこなす患者数が少ないので経営者はアタマの痛いことだろうが、決して殊更に数を抑えているわけではない。そのカラクリはあらためて振り返ってみるとして、今日も患者さんはいろいろだった。

 在日韓国人コミュニティの中で生きてきた僕の世代の女性Kさんが、いつもは娘さんの同伴という立場だが、今日は本人が来られなかったのを幸いに彼女自身の生い立ちをじっくり語ってくれた。
 韓国や中国では、女性は結婚しても姓を変えない。このことを僕は、自身の出自と血統を保持するという肯定的な意味で理解していたが、Kさんによればまるで見当外れだという。嫁はいつまで経っても婚家におけるアウトサイダーである、そのことの徴だというのだ。だから今の日本で夫婦別姓が女権伸長の象徴として語られるのを聞くとき、苦笑を禁じ得ないという。
 さらに「儒教優等生」の韓国の伝統においては、男尊女卑が日本以上に徹底していたという事情もある。若者が日本人と通婚することを嫌う年長の権威者たちは、「虫がつかないように」と娘らを厳重に囲い込んだ。韓国人男性に嫁いでようやく生家の窒息状態から解放されたと思ったが、婚家の現実の中で、自分はタダで家事労働に服し、子供を産むだけの存在かと愕然とした。しかも産んだ子供は婚家のものであって、母親のものではないと言う。そしてコミュニティをとりまく中部地方の田園地帯には、日本流の重い空気の縛りがあった。
 今、育った子ども達は社会の標準に従って自分たちの権利を主張する。言い返そうとして、声が出なくなる自分があることに何時からか気づいた。成長のあらゆる段階において、自己主張を抑えねばならないことを繰り返し学んできた悲しい結果だと、Kさんが振り返る。

 他、寸景あれこれ。

 40年越しの摂食障害を抱えるXさんは上等のチョコレートを僕に手渡して、婉然と微笑んだ。「あげます、危険物だから。」

 軽い双極性障害のYさん、今週末は御主人の発案で伊勢神宮へ日帰りのお参りをするという。深夜に車で出発して早朝に詣で、その足で帰ってくるのだと。何でそこまでして、と思うしYさんも本音はそうらしいのだが、今年は伊勢と出雲のダブル遷宮で、御主人にとっては大事なことなのだ。

 長らくネコを相棒に引きこもっているZさんは、『二ノ国』というRPGにハマるうち、いくらか元気が戻ってきたという。ジブリの画像とイメージのパッケージらしい。ゲームにも功徳がある。

 うつ病本復間近のQさんに「石丸幹二さんは先生の息子さんですか?」と訊かれ、腰が砕けた。息子ってことないでしょうに。むろん、赤の他人だ。
 調べてみれば石丸幹二はもと愛媛県新居浜市の産で、石丸姓が断然愛媛に多いことを裏書きしている。ただし彼は1965年生まれなんだからね、僕ってそんなに老けて見えるかしらん、ショックだなあ・・・

***

 診療を終えて移動の途中、新宿駅頭で久々にケンカを見た。
 山手線がひどく込んでいるので一本見送ったところ、出ようとする電車の窓越しに乗客の支線が一方向へ集中している。その方向を振り返ると若者が二人、モンゴル相撲のように組み合っている。
 「キミたち、やめなさい!」
 なんて、残念ながら言えたもんじゃない。当事者二人が同時にこちらへ向かってきたとして、まとめて叩き伏せる自信がなければケンカの仲裁はできない。近場の駅員に急を告げると、駅員は慌てず騒がず山手線をしっかり送り出し、それから現場へ足を向ける。若者の一人がひどく鼻血を出してうつむき、相手はなおも罵り続けている。どうも通りすがりではあるまい、連れ同士の仲間割れではなかろうか、何となくそんな想像が動く。
 
 薬の勉強会は、前回に続いてアシュトン・マニュアル輪読。ベンゾジアゼピンの長期服用によって脳に不可逆の変化が生じるかどうか、離脱症状やその再発はなぜ起きるのか、起きた際にベンゾジアゼピンの再投与を行うべきかどうか、問いは喫緊のものだが、答はさほど釈然と記されていない。この種のことを真面目に丁寧に考えれば、あまりハッキリしたことは言えないものだ。

***

 今年最後の勉強会なのを口実に、終了後に食事に出かける。
 これは嬉しい席になった。

 久しぶりにやってきた新婚のKKさん、名だたる酒豪がノン・アルコールを注文する理由は一つ。めでたく御懐妊、3ヶ月とのこと。帰宅は毎晩深夜に及ぶワーカホリック気味の御主人を、最初が肝心しっかり教育するよう、皆が寄ってたかってハッパをかけている。
 その横でクチブエ君とも祝杯を挙げる、こちらは年内にも御成婚の由。「自分がそんな気持ちになるとは思わなかった」と、一言の背後に浅からぬ体験が織り込まれているだろう。
 イザベルさんと僕は彼らの親の世代にあたるが、どちらの子ども達もそういう気配や段階にない。自分のことでもないのに彼ら若者のこうした円満な風景は、どうしてこんなにも心を和ませてくれるんだろうね。

 いっぽう、幸せ気分で某病院の産科を受診したKKは、病院側が次から次へとリスクばかりを説明するのに、いささか不安を煽られたという。多くは「出生前診断」の産物だ。検査できる項目は◯◯、その結果に従って◎△から×□へ進むが、結果が分かるまで○▲週かかるので、中絶する場合はギリギリのタイミングになる、等々。そして何枚もの書類に署名捺印。無論病院側は、「情報を与えてもらえなかった」とのクレームをきっちりと予防したいのである。
 聞いて腹立ちを抑えられない。KKは桜美林時代から障害児福祉に深く関わり、この種の情報への耐性は標準より遥かに強いはずである。その彼女が不安を禁じ得ないような情報提供を、頼まれもしないのに否応なく行うのが、今日の医療の標準仕様なのだ。言わんこっちゃない、まだまだ進むだろうよ。診断項目は増え、妊娠中絶は増え、障害をもった子ども達は減り、僕らの器はどんどん小さくなる。

 妊婦さんを含め、皆明日も仕事だというので早めのお開きを申し合わせたところへ、デモに出かけた勝沼さんが合流する。ちょっとした英雄の凱旋を迎える気分、食べ物が残っていて良かった。
 デモ慣れした彼だが、今夜は何時になく殺気立っていたと、彼自身いくらか興奮の態で報告する。流れの加減でデモの前面に押し出され、三重の列をなす警官隊と正対したときは本心から怖かったと。議事堂内では深夜の審議が続いており、その経過について流言が飛んで、群衆特有の粗大な感情のうねりを刺激する。一触即発、その「一触」を避けるべく双方とも神経を尖らせているが、それだけに「一触」が生じたときの「即発」は抑えがたかろう。逮捕者が出たように見えたという。勝沼君、君が無事で何より。イザベルさんのコメントに依れば、僕らが別れた前後の23時23分、法案は参院本会議を通過した。

*****

 12月にしては温かい夜、最寄り駅から深夜の道を家に向かうと、無灯火の自転車が音もなく追い越していく。
 「ライト点けろよ!」
 と声をかけようとして、彼が戻ってきて殴りかかってくる妄想に一瞬躊躇した。
 
 
デモ隊に配布されたA3大のプラカード。勝沼氏の好意による。

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