いせ九条の会

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大島賢三・国連大使の指摘/山崎孝

2006-11-14 | ご投稿
朝日新聞11月11日付けに「国際貢献 守りたい日本の外交資産」というタイトルで、大島賢三・国連大使の文章が掲載されていました。その文章を抜粋して紹介します。

《国際の平和と安全の維持が国連の最も重要な任務であるが、同時に国連加盟国の大半が開発途上国であることから、2001年の米同時多発テロ以降、テロを誘発する貧困や社会的不公正などへの関心がますます高まっている。

その中で日本には、その国力と従来の実績から、開発や人道、復興、平和構築などの分野で大きな貢献とリーダシップが期待されている。これに着実に応えていくことが国際社会で敬意を受け、影響力のある地位を保持する基礎になっていることも疑いをいれない。

にもかかわらず、最近、国連の現場にあってわれわれが日々、憂慮を禁じえないのは、このような日本の国際的地位、影響力の源泉となっているわが国の外交資産の需要な一部が失われ始めている。しかも国民が多くの国民の気づかぬ間に事態が静かに着実に進んでいるのではないか、という現実である。》

と大島賢三氏は指摘した後にその日本の外交資産とは何であったかを述べています。

《国連開発計画(UNDP)への最近数年の任意拠出額の動向を見ていただきたい=グラフ。日本は2000年には第1位であったが、その後、他の援助国が急速に拠出額を増加させているのに対し、わが国の拠出は、ここ数年の政府の途上国援助(ODA)削減のあおりで毎年階段を一歩ずつ下りるがごとく順位を下げ、2006年にはとうとう第6位に転落した。

 こうした傾向は他の国連機関への拠出についても見られ、2000年度以降30%~40%、中には70%も任意拠出金を削減したものもある。

この日本の下落は、中国、インド、韓国などが右肩上がりに国際貢献(国連PKOへの人的貢献など)を増やす中で起きていることも念頭に置く必要がある。

 たかが多国間機関への拠出順位ではないかと思われるかも知れない。しかし、国連外交の現場において、これが影響力の低下を伴うことは避けられない。さまざまな決議案交渉や各種多数派工作・支援要請がつきまとう。

在外公館における地道な努力やODA実績を含む外交努力が認められ、「日本よ、ありがとう」と各種選挙などで感謝され、まだ取りこぼしは少なく済んでいるものの、足元は決して安泰とは言えない。

すでに、UNDP、国連人口基金やユニセフなどわが国がこれまで重視してきた計画・基金においてすら、従来維持してきた執行理事会における事実上の「常任」の地位保持も危うくなってきている。拠出順位が落ちれば、これら機関への日本人幹部・スタッフの送り込みにもマイナスの影響は免れず、日本人の「過少代表」問題は改善どころか悪化も懸念される。

 もちろん、国連機関への拠出金は日本の貢献の一部に過ぎず、これですべて測られるわけではない。政策やアイデアでの勝負でも負けてはいけない。

 例えば、国家レベルの安全保障だけではなく、戦争や飢餓、貧困、エイズ、自然災害など個人レベルでの安全保障に焦点をあてた「人間の安全保障」の理念を進めているのも日本だ。

1998年に当時の小渕恵三首相が提唱し、国連にそのための基金を設け、緒方貞子氏が議長を務めた「人間の安全保障委員会」で着実な進展へと結びついている。(中略)

 課題は多いが、まずは、せっかく蓄えられてきた外交資産の減耗が放置されてはならない。そうした思いを現場にある者の一人とし

てお伝えしたい。》

大島国連大使が指摘しているのは、《2001年の米同時多発テロ以降、テロを誘発する貧困や社会的不公正などへの関心がますます高まっている》にもかかわらず、《ここ数年の政府の途上国援助(ODA)削減》で、日本の国連に対する財政的貢献が弱まる。この財政的貢献は、日本の重要な外交的資産で、その消耗が放置されてはならないということです。

日本の財政的貢献は評価されて、紛争後の復興を支えるために国連が新設した「平和構築委員会」の常設機関である組織委員会のメンバーに選ばれています。

安倍首相は10月30日、外国のメディアに《「時代にそぐわない条文として典型的なものは憲法9条。日本を守るとの観点、国際貢献を行っていく上でも憲法9条を改正すべき」と強調しています。

最近のレバノン情勢や北朝鮮の問題に対する安保理決議は、国連憲章第7章第42条の武力制裁の条項をはずし、国連は問題解決のためには武力行使を避ける考え方を貫いています。これを見れば国際貢献のために、憲法9条を変えて海外で武力行使を可能にする必要性はありません。むしろ、日本の重要な外交資産である国連への財政支出を減らさないことです。憲法改定の目的は日本を守るために行うのではなく、米国の覇権に協力するためのものです。