いせ九条の会

「いせ九条の会」の投稿用ブログです(原稿募集中)。
会の趣旨に賛同される方、メールでご投稿ください。

防衛庁を「防衛省」に格上げを考える/山崎孝

2006-06-11 | ご投稿
政府は、6月9日の閣議で、防衛庁を「防衛省」に格上げする「省昇格法案」を決定しました。これについて安倍官房長官は9日の記者会見で「近年、防衛問題が重要性を増すなか、諸外国と同様に防衛庁を省と位置づけ、各種の事態により的確に対応することは必要なことであり、自然な流れだと考える」と述べています。

安倍官房長官は侵略戦争を起こした反省から、日本は国際紛争を解決する手段として武力を用いないとする基本理念は念頭には無いようです。ネオコン的に相手を力で威圧して、妥協を引き出そうとする考え方を基本に持っているようです。かつては、前原誠司氏らと共に、日本は先制的攻撃能力を持つべきだという考え方を示し、日本の原爆保有に触れたこともあります。

それでは安倍官房長官のいうように「近年、防衛問題が重要性を増す」ようなことが頻発し、外国から脅かされているのでしょうか。防衛白書は「見通し得る将来、わが国に対する本格的な侵略事態生起の可能性は低下している」と分析しています。また、日本に対する「着上陸型の侵攻」も低いと述べたこともあります。北朝鮮がテポドンの発射実験を一回行ったからといって、テポドンミサイルでは日本を占領できません。相手国を占領支配してこそ戦争する利益が生まれます。国際社会から援助を受けないと自国民の食糧確保さえ不十分な北朝鮮が日本を攻撃占領する国力があるとは考えることは出来ません。

軍事力を背景にして相手を脅かして対立する問題の交渉を有利に引き出す方法も考えられますが、これを行った米国は失敗して結局は6者協議に応じたケースあり、最近はイランの核問題でも最初は強行でしたが、交渉のテーブルに着こうとする姿勢を見せ始めています。

中国の脅威が叫ばれていますが、強面のラムズフェルド米国防長官さえも、米中はステークホルダー(利害の共有者)だと、最近シンガポールで開かれた「アジア安全保障会議」で中国人学者の質問に答えています。圧倒的な軍事力で対決してばかりではいられないという認識です。

この会議には台湾も参加しています。「省昇格法案」には、自衛隊の海外活動も国土防衛と同じ本来任務という同格の扱いにすることを盛り込んでいます。台湾有事を想定した周辺事態での後方支援活動も本土防衛と同じ扱いになります。しかし、これも米中は台湾問題では、現状維持を確認しており、それに中台は経済的に緊密度を増す方向を加速させ、台湾独立を叫んだ陳水扁政権は、台湾の人たちの支持を大きく失っています。「近年、防衛問題が重要性を増す」とはいえません。

防衛庁は昇格すれば、不審船に対処する「海上警備行動」などの発令の承認を得る閣議の開催も要求できるとして、「危機に迅速に対応できる」と、その意義を強調していますが、基本的には不審船に対応するのは、海上保安庁の仕事で警察力を用いる仕事です。

海上保安庁は不審船沈没事件が起きてから、巡視船の高速化と防弾設備強化に力を入れています。本年度も高速巡視船とヘリコプターの導入を決めています。不審船の正体を明らかにするには不審船を捕縛して船を調べなければなりません。海上自衛隊ではこのようなことが上手くやれるような高速船と技術は持っているとは思えません。得意の戦闘能力で撃沈させては不審船を調べるのに困難が伴います。

私は海の記念日に巡視船に乗せてもらったことがありますが、巡視船には逃走する船を捕縛するために、キャッチャーボートが鯨を捕獲する時に使用するような銃の発射装置が装備してありました。銛を発射するとロープも一緒に伸びてゆき、逃走する船を捕縛する装備でした。

安倍官房長官は9日の記者会見で述べた「近年、防衛問題が重要性を増す」という認識は、2001年のアフガン戦争、2003年のイラク戦争などのような米軍が起こした戦争へ「的確に対応すること」を強く意識したと考えられます。