いせ九条の会

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W杯の人気に比喩して国連の願望を語る/山崎孝

2006-06-10 | ご投稿
2006年6月10日付け朝日新聞にアナン国連事務総長の寄稿文が掲載されていました。国連事務総長は、W杯人気に比喩して国連の4つの願望を述べています。以下、その文章を抜粋します。

私がうらやましいというのは、以下の理由による。

第1の理由は、W杯の人気である。自国チームの順位がどうで、いかにして本戦出場を決めたか、誰がミスし、誰がペナルティキックを防いだか、誰もがよく知っている。我々国連も、その種の兢い合いがあればいいと思う。

世界中が見つめる中、「人権」という競技で各国が堂々とトップを目指して競い合い、幼児死亡率の低下競技や教育を受けられる子どもたちの数で親い合う。

 第2は、話題性。ブエノスアイレスの街角から北京の喫茶店まで、地球上いたる所で、人々は自国チームのゲーム展開に口角泡を飛ばす。話題は相手チーム、他国チームヘと広がる。普段は口数の少ない10代の若者が、W杯の話になると、突然、雄弁家に変身する。国連もそのくらい世界中で話題になれば、と思う。「人間開発指数」(保健水準、教育水準、所得水準にもとづく国の開発指数)や排ガス規制やエイズ問題に、自国がどれほど熱心に取り組んでいるか、ホットな話題になればいいと願う。

 第3は、平等な参加の機会。W杯は才能とチームワークがあれば、どの国のチームにも本戦出場の機会が与えられている。国連も、もっと機会の平等性をもっていて、各国が国際舞台でその力を発揮できればいいと思う。

 第4は、人種間、国家間の交流。今や多くの国家チームが他国から監督を招くようになり、新しいサッカー観が導入されている。普段は外国のチームで活躍し、その国でヒーローになり、国家間交流に大きな役割を演じている選手も多い。そして、W杯の際にはその経験を自国チームに生かしている。国際社会でも、移住が、移住者自身と母国と受け入れ国の3者にとって、共に利益になればいいと私は願う。生活、経済、社会、文化の交流と深化を通じて。W杯出場は国家の誇りに深くかかわる。私の母国ガーナのように、初出場国にとっては名誉の懸け橋である。アンゴラのように長年内戦にあえいだ国にとっては、国家再生の大きな踏み台にもなろう。内戦で分裂状態にあるコートジボワールのような国にとっては、国家統合の象徴的存在であるナショナルチームは国家再生の希望である。我々国連にとって最もうらやましいと思うのは、W杯は到達すべき目標がはっきりと見えることである。私は何もゴールのことだけを指しているのではない。国家と人間による大きな地球家族の一員として、共通の人間性をたたえる場であること。それこそが最も重要なゴールではないか。わがガーナが12日にイタリアと対戦する際、私はそのことを思い返してみようと思う。その通りになるかどうか、約束できないけれど。(以上)

アナン氏は、「誰がミスし、誰がペナルティキックを防いだか」と各国の国連および国際社会に対する態度を暗示し、4つの項目に分けて問題を明らかにして、その解決への願いを示しました。

そして、最後に「私は何もゴールのことだけを指しているのではない。国家と人間による大きな地球家族の一員として、共通の人間性をたたえる場であること。それこそが最も重要なゴールではないか」と述べています。

私もこれこそ国際社会のあるべき姿だと思います。この言葉に照らし合わせて、自民党及び新憲法草案が示した日本が国際社会にこれから臨む課題と、日本国憲法の提示し、希求しているものの、どちらがアナン氏の言葉に適っているでしょうか。

自民党新憲法草案はこれからは軍事力での国際貢献が重要な日本の課題と規定し、現在の自民党の政策は仮想敵国を想定し、軍隊を持ち日米軍事同盟の更なる強化を志向しています。

6月10日夜、額賀防衛庁長官や市民が参加し防衛問題の意見を述べたNHK番組では、米軍基地が必要とする人たちは、一様に中国と北朝鮮の脅威を述べて、自衛隊だけでは国は守れないから米軍に守って貰わなければならないと述べていました。額賀防衛庁長官は抑止力のために米軍基地は必要と述べ、日本は民主主義の国で防衛問題をこのように討論できる。また、他国から日本の平和主義は評価されていると主張して、将来もこの姿勢はかわらないことを強調していました。これは改憲しても変わらないことを印象付けようとしていました。大いなる欺瞞です。

米軍基地は不要とする立場のある人は、米軍基地があることによって日本は加害者になっていると述べていましたが、戦後60年間在日米軍が行ってきた他国への侵略行為をもう少し具体的に説明すればよかったと思いました。特に現在のイラク戦争とのかかわりでもう少し詳しく説明すればよかったと思いました。

番組に参加していたジャーナリストの斎藤貴男さんは、米軍再編で自衛隊と米軍の両司令部の隣り合わせになることを指摘しましたが、これが持つ意味合いを近著の「ルポ改憲潮流」(岩波新書)で書かれていることを説明されてはと思いました。

米軍に日本を守ってもらうという考えは、アナン氏が述べた「誰がミスし、誰がペナルティキックを防いだか」という認識が無く、世界を「国家と人間による大きな地球家族の一員として、共通の人間性をたたえる場」にしょうとする考えではありません。軍事国家が侵略を犯して多くの人命を犠牲にしたために、国際連合を作り侵略戦争は悪であると明確に規定した歴史認識もありません。また、国連の場や問題ごとに解決の取り組みを行う国連機関を作り、基本的には対決から対話へと努力している国際世論や冷戦構造を脱皮しつつあるアジア情勢に対する認識もありません。しかし、視聴者に対して回答を求めた日本の安全保障をどうするかいう趣旨の設問には、日米同盟が1番少なく、自主防衛が2番で、外交努力が他を引き離して一番多くありました。この国民の意識を貴重です。自民党が考える改憲の内容と対立する意識です。

日本国憲法は、もういうまでもありませんが、世界を「国家と人間による大きな地球家族の一員として、共通の人間性をたたえる場」にするという理念は、前文と9条が示す事柄と共通します。意見の対立する数々の紛争の解決に悩み苦しみながらも、現役の国連事務総長が述べたこの言葉は希望を抱かせます。対立する問題を解決する方向は、これ以外の理念はありませんから。