Miscalculation

まじ快コナン二次創作中心。まったり更新の中途障害者で古の腐女子の比較的女性向サイトです

真白い闇 2

2010-06-16 18:09:36 | まじ快・コナン捏造SS
……と言う訳でシリーズ2日目。今回は快斗の視点でお送りします。私、トランプマジックしか間近で見たこと無いんで……妄想大爆発☆

一日目からの続きですのでそちらからお読み下さい。


二日目・前編(快斗視点)



国籍を問わない大勢の観客が、小さな舞台に立ち、スポットライトを浴びたオレを期待に輝いた目で見ている。
オレはキッドのトレードマークである白ではなく、黒い燕尾服に黒いシルクハットを被ってマジックショーをしている。
挨拶ついでにシルクハットを脱いでみせると、中から白鳩が何羽も飛び出した。
しかしオレがパチンと指を鳴らすと白鳩は様々な色の紙吹雪に変わってオレの周りに舞い落ちた。すかさず拍手が巻き起こる。

空になったシルクハットを客席に見せてから中に手を入れる。
そして、今度はゆっくりと入れた手を出して行くと、空の筈のそこからスルスルとカラフルなハンカチが繋がって現れて、それは幾つもの破裂音と共に色とりどりの小さな花束に変わった。
ワッと観客から歓声が上がる。

シルクハットを被り直して、緩々と落ちる花束を素早く掬い取る。それぞれに息を吹き掛けると、花束はカラフルな風船に変わって浮き上がる。
それを引き寄せ一纏めにすると大判の赤いハンカチをかけて隠し、オレはカウントを始める。

観客が見守る中、THREE,TWO,ONEの掛け声と共に風船は破裂音も無く消失して、赤いハンカチだけがオレの手の上にふわりと落ちる。
赤いハンカチを退けるとそこには一輪の赤薔薇。それをくるりと指先で回して鼻先に近付けつつ、くるりと手を翻すと薔薇の色が赤から白へ。再び拍手が降り注ぐ。

オレは再びシルクハットを取ると、薔薇をその中に入れて赤いハンカチを被せ、指を鳴らしてすぐに取り去る。
すると、白薔薇は白鳩になってシルクハットから飛び出すと大人しくオレの肩にとまり、赤いハンカチは一振りすると豪華な赤薔薇の花束に変化する。

オレは空のシルクハットを観客に見せつつ右足を引き、右手を体に添え、左手を横方向へ水平に差し出すヨーロッパ式のお辞儀をし、今度はしっかりとシルクハットを被り直した。
観客からは惜しみない拍手が贈られる。


楽しい。楽しいよ、おやじ。
皆がオレの繰り出す魔法にかかって、楽しげに笑ってくれる。
あんたにも、オレのマジックを見せたかったんだ。一緒に舞台にだって立ちたかった。
オレが唯一敵わないのは世界一の奇術師だったおやじだけ。
だからオレは、おやじを超えて世界一の奇術師になる。

……でも、それを認めるのは、誰だ?
「キッド!」
呼ばれたのは今の仮の姿であるキザな悪党の名前。
オレの衣装はいつの間にか黒から白へ。それはいつもの『怪盗キッド』の衣装。
声のした方、振り返った先にはもう一人のキッド。

「お前は怪盗キッドではない。そして、黒羽快斗でもいられない。お前はもう表舞台には立てない」
誰だ、と問うと室内なのに強風が吹いて白いシルクハットが飛ぶ。顔を見てオレは驚く。そこには何もない。のっぺらぼうだ。

違う、キッドも黒羽快斗もオレだ。
言った途端、左肩から炎が出た。慌てて払うも間に合わず、炎がオレを飲み込む。遠くから子供の声が聞こえた。
『おやじ!』こちらを見て観客席から叫んでいるのは幼いオレ。大人に阻まれ、その手は届く事はない。ポーカーフェイスを忘れた必死な顔。

オレはあのおやじが……『客に接する時、そこは決闘の場、決しておごらず侮らず 相手の心を見透かし、その肢体の先に全神経を集中して 持てる技を尽くし なおかつ笑顔と気品を損なわず……いつ何時たりともポーカーフェイスを忘れるな』……常々そう言っていたおやじ自身が、マジックの事故を装って殺されたなんて今でも信じられない。
……故意による事故? そんな訳がない。奴らにそう仕向けられたとしても、あのおやじが……世界一の奇術師だったおやじが、そんな簡単にやられたりするものか!
いつの間にかオレは炎に包まれた檻の中。腕にも胴にも脚にも重い鎖が巻き付いて動く事すらままならない。
まるでこれはあの日の脱出ショーで脱出に『失敗』したおやじのようじゃないか。
どんどん勢いを増す炎。檻だけでなく、観客席にも炎が広がる。逃げ惑う人々、焼け崩れる室内。
なのにどうしてだろう。ここは酷く寒い。

おやじ。あんたはあの事故の時、一体最後に何を思っていた?組織の事?パンドラの事? それとも……オレたち 家族の事?
オレは、赦せない……あいつらを。
どうしてパンドラなんてものを欲しがるんだ。不老不死なんて夢物語だ。大体、叶えてどうする。
不老不死を叶えたいという事は、既にある程度自分の欲を叶えた人物なのだろう。
金も地位も名誉も既に手にしているのかもしれない。人の欲には限りが無い。だからこそ、上まで登り詰めた人間はその地位に固執する。
だが、紙幣の価値も、宝石も、土地もブランドも、貴金属だってそれは価値を決める人間がいるから相応の価値が存在しているだけ。
地位も名誉も、それを認める誰かが存在するからあるのだ。永遠の物ではない。
そんな中で不死を願い、一人生き残ったとして何になる? 見知った人が全て老いていなくなった孤独の中、自らだけが止まった時間の中に取り残されて、そこで己の不幸でも嘆くのか?
人は異端に敏感だ。不老不死の異形が、長く幸せを掴むなんてどう考えても不可能だ。
永遠の幸せなんかありはしない。幸せとはあっという間に崩れ去るものだ。無くなって初めてそれがそうだったのだと実感するものだ。

それに人には分というものが存在する。それを超えて幸せにはなれない。いつかしっぺ返しを食らうのがオチだ。
どうしてそんな不確かで下らないものの為に、誰かの大切なものを犠牲にせざるを得ないんだ。馬鹿馬鹿しい。

焼け爛れた室内は天井も落ちて、そこから夜空が見えた。
「……馬鹿だな、どんなに望んでも過去は変えられない。お前が選んだ道は復讐。先も無ければ、夢も叶えることも出来ない。もう戻れないんだよ」
オレを見下ろすのはもう一人のオレ。
ボレー彗星が来るまでの、区切られた期間は僅か1年間。それも最早半分以上が過ぎ去った。
必ずそれまでにパンドラを見つけ出して、奴らのボスの前で砕いてみせる。そう誓った。復讐は何も血を流す事だけじゃない。
奴らを社会的に潰す事までがオレの復讐。じゃあその後は? 考えた事が無いかと言えば嘘になる。

「全てが終わったらどうする? 一生皆を騙し切ってのうのうと夢を叶えて、一般人のフリをして生きるか? 墓の中まで秘密を持っていくつもりか?」
不意に青子の事が頭を過ぎった。皮肉にもボレー彗星がやってくるのは青子の誕生月だという。
誰より大事な幼馴染みなのに。誰より彼女を傷付けている。オレでは青子を幸せにはしてやれない。
もう、以前の様には彼女と無邪気に笑えない。ずっとあの時から騙し続けている。そしてこれからもきっと。
今は、とにかく走り続けるしかない……それが言い訳に過ぎないとしても。

いつの間にか檻も鎖も消えて、オレは舞台の上の足場に左手だけでしがみ付いていた。
下を見ると、そこは舞台では無くあの夜の廃工場。すでにコンクリートの床の上、ナイトメアは無惨にも事切れていた。
あの時、彼の手がこの手から滑り落ちる瞬間を、あの感触を憶えてる。
ああ、助けたかったのに。無情にも手袋越しの手は外れてしまった。優先順位を間違えた、哀しい父親。

「あーあ、探偵の真似事なんかしてお前が追い詰めたからだ。彼を殺したのはお前だよ」
足場に悠々と立って、オレを見下ろすもう一人のオレが嘲笑うように言う。
「どこか似ているからってあの名探偵に憧れでもしたか? 観察眼や洞察力には自信があるもんな? 同じように誰かの心を救いたかった? 自分にも出来ると思ったんだよな?」
そうだ、救えるものなら救いたかった。今までや父の遺品を集める彼女の時は成功した。だからあの時も救えるかもしれないと思った。贖罪のつもりだとしたら、何という傲慢か。
「……そんな汚れた手で誰かを救おうなんて、おこがましい。お前は誰も救えやしない」
見下ろすもう一人のオレの顔は能面のように無表情だった。

見上げると紅い月。いつの間にかもう一人のオレが持っていた宝石から零れる光と紅い雫。まさかこれがパンドラだとでもいうのか?
雫は不老不死なんて望まないオレの、足場を掴んだ左肩に落ちて、瞬時に焼け付くような痛みがオレを襲った。

左肩を貫く激痛に、足場を掴んでなんかいられない。オレも落ちるのか。彼のように……!

……違う、これは夢だ! 痛みがあるのは奴らに撃たれたせいだ!!
夢に落ちていない意識が叫ぶ。

(ゆ、め……ああ、夢か……)

急速に意識が浮上する。それと共に夢の内容は意識から急速に失われていく。


残ったのは悪夢による不快感と、現実の銃創の痛みだけ。

朝だ。ぱちりと目が覚めたら自室のベッドの上、オレは下着と、包帯を巻いただけの状態だった。シーツもブランケットも掛けずにいたとは……道理で少しひやりとする筈だ。
幸いにも目が覚めたのは目覚ましが鳴る直前。母さんが起こしに来る事も、寝坊して青子が怒鳴りこんでくる事も無い。

それにしてもちょっと余裕が無さすぎたかもしれない。
今朝方は、予告状通り宝石を盗んで、白馬と警察をうまく撒いたところまでは良かったが、その後が悪かった。
風向きを計算して逃走中、ビッグジュエルであるかどうかの確認をする為にうっかり立ち寄ったビルで何の因果かまたあの名探偵に出会い、組織の奴らとの遣り取りを見られた。
その上面倒な事に背後から狙われているオレを気遣ったのか知らないが、部外者である自分の存在を奴らにバラしてまでオレに警告をしてしまったものだから、そこからが大変だった。一応、避けられると豪語したものの実際はどうだったか解らないし、助かったのは事実だが。

その後、見境なく攻撃する奴らの銃撃から逃れるうちにヘマをして足を痛めた名探偵を放っておくわけにもいかず、助ける時には名探偵の正体を見られないように隠してその場を去ったが、その際に銃撃の一発を避け損ねて左肩を負傷した。
正直その時点でおさらばしたかったがそういう訳にもいかず、こっそり痛み止めを飲んでキッドとしての余裕を見せつつ、足を痛めた名探偵を毛利探偵事務所まで送り届けて、奴らと相対したビルの屋上へ逆戻り。証拠になりそうな物を処分し、今度は最初の美術館近くへ。
まだ待機していた真面目な中森警部の部下のポケットに、それと気付かれないようにこっそり宝石を返してから、また近くで変装して遠回りしながら用意しておいた自転車で家に帰った。

帰るなりすぐに怪我の治療をし、解熱剤を飲んでスーツの汚れも落としたし、大事なキッドの衣装も目立つ白なのでそれより丁寧に血の染み抜きをしておいた。
その時点で優に3時は過ぎていた。
が、オレが意識が保てたのはそこまでだったらしい。いや、そこまで保てただけでも自分を褒めてやりたいくらいだ。

枕元の携帯のアラームが鳴る前に止めるべく携帯を開くと、メールが一通入っていた。今回は準備と最初の逃走の際だけ世話になったジイちゃんからだ。
今朝方は慌てていて、メールで二人だけが通じるようにした合言葉でお互い無事に帰った旨を伝えあっただけだったせいか、やはり心配していたらしい。
大きなヤマの時は事あるごとに親父の名を持ち出すくらいだ。もしかしたら実の孫くらいに思ってくれているのかもしれない。
合言葉を訳すと『お怪我は?』とあった。それに大丈夫だよ、また店に顔を出すからと同じく合言葉で返す。
心配して貰えるのは嬉しいが、ちょっと過保護なところもあるジイちゃんは即座にメールを返してきた。
『ご無事で何よりです。お待ちしております』
定例だが、嬉しいその遣り取りを全て消去して履歴を消す。これはプライベートの携帯だから下手に誰かに見られたりしても困るからだ。
(ありがとな、ジイちゃん)
返事では返さなかったが、感謝しつつオレはそっと携帯を閉じた。


「ふぁぁ……」
キッドの時には決してしない大欠伸をしてオレはベッドから足を下ろす。
それにしても完全に寝不足だ。若い分、回復は早いが無理は禁物。学校に行くのも面倒だが、休んだ場合を考えると、今回参加していた白馬は以前を思えばどんな状態でも真面目に登校してくるだろうし、後日何を言われるか分からない。
それならば多少面倒であっても無理してでも学校に行く方がマシだと思えた。
都合の良い事に、今日の時間割には体育は無い。これは、午前の授業中を睡眠時間に充てるしかないな、とオレは教師が聞いたら涙ぐみそうな事を決心して学生服に着替えた。

「……おはよー」
階段を下りて顔を洗いに洗面所に入ると、母さんが洗濯籠を運ぼうとしていた手を止めた。
「おはよう。あら、今日は随分早いのね」
驚いたような眼。多分オレが遅く戻った事も、明け方こっそり洗い物をしていた事にも勿論気付いているに違いない。どんなに気を遣っても水音を消すのは難しい。
「……あぁ、何かいつもより早く目ぇ覚めちゃってさ」
「そう。……寝不足ならあんまり無理しないようにしなさいよ」
「大丈夫だって」
曖昧に誤魔化した台詞には心配が透けて見える。怪我に関しては見抜かれたくないな、と思いつつ洗面所から出ようとすると後ろから声が掛かった。
「……快斗、身嗜みには注意しなさい。左の下の方、髪に癖が付いてるわよ。後、母さん今日パート早番だからご飯食べたら食器片付けといてね」
「……あー、はいはい」
母子家庭の為に慣れているので食器の片付けのような家事はともかく、身嗜みにまで口を出されるとは面倒だな、と思いながら鏡の前に戻ると、左の髪の先が不自然に固まっていた。
さっきは適当に寝癖を直した程度であまり鏡をまともに見ていなかったせいで気付かなかったらしい。
「ん~?」
良く目を凝らして確認して、オレは驚愕する。
(……げっ……)
髪を固めていたのは勿論ムースやワックスなどでは無い。オレの血だ。ぎょっとして振り返ると、既にそこには母さんの姿はなかった。


「おっはよー、快斗!」
オレが半分開かない目を擦りつつ教室の扉を潜ろうとすると、まだ幼さを残した明るい声が後ろから掛かった。幼馴染の青子だ。
「はよ……相変わらずオメー、朝っぱらから元気だな…」
「当然でしょ。青子、快斗みたいに夜更かししてないもん」
「……オ、オレみたいって何だ!!」
(……うぇっ……何で知ってんだこいつ…)
健康優良児・青子の何気ない言葉にオレは一瞬ギクリとしたが、深い意味は無かったらしい。
「だって、夜中お父さんが帰って来た時に起きたら、快斗の部屋電気点いてたってお父さん言ってたよ?」
「……え。……あー……そうだっけ?」
どうやら青子の父親でキッド専任の中森警部は、オレがこっそり返した宝石を発見してちゃんと家に帰ったらしい。
青子が機嫌がいいところを見ると、宝石の返却はどうやら中森警部の手柄になったようだ。
相変わらず新聞記者達はオレが自主的に返しているというのに『宝石の奪還に成功!』等と勝手な事を書いてくれるだろうが、まぁ、白馬の手柄になるよりは余程いい。
「……快斗の事だから、どうせマジックの練習でもしてて時間忘れてたんでしょ?」
「……あぁ。まぁ、な……」
呆れたようでいて、少し心配げな言葉にホッとして曖昧に頷くと、「もう、ちゃんと寝なさいよ?」と母親のように口煩い青子に生返事をして、自分の席に着くなりオレは教科書を広げて立てて寝る準備に入る。

ところがいつの間にオレの背後に回っていたのか、高校生にしては大人びた雰囲気の女……本人曰く『赤の魔女』こと紅子が何気ない素振りをしてオレの左肩に軽く凭れ掛かった。
(……ッ痛ッてェェェ!!)
「……あら、随分とお疲れのようね、黒羽くん?」
狙っているのかいないのか、今朝方の傷の真上に腕が置かれている。
叫ぶ事も、傷に障るから退けとも言えず、肩を貫く激痛に涙目になったオレを覗き込んだ紅子はクスリと笑う。
「……さっきの話、聞いてたんだろ……寝不足なんだよ……っ」
聞きようによっては青子の言葉を肯定するような言葉を何とか吐き出しながら、欠伸の振りをしつつ精一杯恨みがましい視線を向けると、漸く紅子はオレの上から退いた。
「軽い気持ちで手を出すとこの程度の火傷では済まなくてよ? 姿形に惑わされてはいけない……。アレはあなたを滅ぼすもの。光の魔人なのだから……」
「……へいへい、何の話かは判らねーけどご忠告どーも……」

どうせいつもの占いか何かなのだろうと適当に流すつもりでそう言うと、紅子は意味ありげな視線をオレに向けた。
「でも、そうね……あなたは唯一私の魔法を躱し、予言を覆す事のできる『魔法使い』……うまくすれば……」
「……な、何だよ……?」
意味慎重な沈黙に、オレが思わず訊ねると、紅子はクスクスと笑った。
「あら、私のルシュファーの予言を『くだらない占い』と言ったあなたがそれを気にするの?」
「ぐっ……」
「そんな顔をしてまで……本当に意地っ張りなことね」
ほほほ、と口に手を宛がって笑う紅子はチラリとオレを見下ろしただけで、それ以上は何も言わずオレから離れると何事も無かったかのように席に着いた。
(……ったく……何なんだよ……)
自称『赤の魔女』の言う事はいつも的を得ない曖昧なものばかり。紅子は毎回モヤモヤとした痼りのようなものだけを残して去ってしまう。
余り深く考えないのが吉だな、とオレは結論付ける。朝から何だか余計に疲れが増した気がした。

「……君は朝から何をしにここに来ているんだい?」
もう何でもいいから寝てやろうと、今度こそ机に突っ伏そうとした瞬間、降ってきた呆れ声にオレは仕方無く顔を上げる。今度は白馬か。次から次へと、本当に勘弁して欲しい。
「……お前には関係無いだろ。ってかお前、何その隈……」
「ははは、今回はキッドの情報に随分と振り回されたよ。逃げ切られたかと思えば違う場所に導かれ、そちらに向かえば元の美術館近くの警官の元に宝石が戻っていてね、お陰で混雑の中、右往左往する羽目になったよ」
軽く壊れた様に笑う白馬は皮肉たっぷりにオレを見た。今朝方の仕事は帰国後すぐだったせいか、時差なんかのせいもあったんだろう。オレなんかより相当お疲れの様だ。

(そりゃーご苦労さん……)
オレは内心でだけ彼と警官たちを労ってやった。障害物の無い空を行くキッドと違って、警官たちや白馬はキッドファンで混雑する地上を必死になって駆けずり回っていたに違いない。
ヘリの数だって限られている。事前許可を取っていない高層ビルを上るのも大変だったろう。
こちらが危険だったからとはいえ、彼等にとっては無駄に呼び寄せられたのだ。まぁ、流石に罪悪感が疼かないではない。

それに白馬はあくまで『警視総監の息子』の探偵。警察という組織と関わりの深いこいつは、幾ら単独行動を取ろうとしても、その血筋によって逆に行動に制限が掛かってしまう。
その点名探偵は、警察にパイプはあれどもしがらみは無い。自身が有名な事で行動制限が掛かっても、白馬よりは自由だ。しかも今は子供の姿。人混みに紛れるのも、ちょっと違法スレスレな事をしても子供の演技で誤魔化せる。それを考えると少々恐ろしい。
今朝方のビルだってあの姿を活かしてこっそり無断で登って来たに違いない。

「……オレには関係無ぇけどさ、まぁ……あんま無理すんなよな」
「出来ればそうしたいね」
ポツリと言ってやると、白馬は苦笑した様だった。そして、そのまま席に戻るかと思えば「そうそう、」と付け加えた。
「今朝方は別のビルで暴力団かどこかの組織の抗争もあった様だしね……君も充分気を付けた方がいい」
「……だぁからオレは関係ねぇって」
いつもの遣り取りに戻ったところで、ひらひらと手を振って今度こそ机に突っ伏すと、白馬が肩を竦めた気配がして、席に戻る為か足音が去って行く。
オレは頭の中で出席日数の計算をしながら、朝から考えていた昼からの予定を少々繰り上げる事にした。


二日目・後編へ続きます。2015 11/15改稿


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